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Garmin Edgeの「推定稼働時間」の罠
Edge x40世代以降に搭載されている「推定稼働時間」の挙動に問題がありそうなことが分かったので、注意喚起のための記事です。
はじめに
まずはこの記事を書こうとしたキッカケから書いていきます。
突如沈黙したEdge840
先日、キャノボに挑戦したとある方から妙な話を聞きました。
スタート前に、Edge840の推定稼働時間を確認したら“29時間”と表示されてたんですよ。だからキャノボの24時間なら余裕で持つと思ったんですが……実際には18時間ほどで急に電源が落ちてしまったんです。
この後は、「サイコンが完全に沈黙した後はルートが分からず、道に迷いながら進んだものの残念ながらタイムオーバーとなってしまった」とのこと。普通に走れていれば十分に達成ペースだっただけに悔やまれる内容です。
Edgeの「推定稼働時間」機能とは
GarminのEdgeシリーズには、「現在の設定で使用した場合、あと何時間使えるか」を表示する機能があります。本記事ではその機能を「推定稼働時間」と呼びます。
この推定稼働時間の表示は、Edgeの「x40」世代から可能になりました。x30以前の世代には搭載されていない機能です。

推定稼働時間は、「メインメニュー→バッテリー節約」から確認可能となっています。
この推定稼働時間の数値は恐らく以下の値から推定したものです。
- 「バッテリー節約モード」のON/OFF
- 現在のバッテリー残量(%)
- 稼働時間への影響が大きい設定項目の設定値
(バックライトの明るさ、GPS精度など)
なぜ18時間しか持たなかったのか
冒頭に書いた彼はこの推定稼働時間の「29時間」を信じて出走したわけですが、実際には18時間でバッテリー切れに陥ってしまいました。推定時間の6割しか持たなかったことになります。
なぜ、そんなことが起こったのか。
私はこの「推定稼働時間の算出方法に問題があるのではないか」と考えて、実験をしてみることにしました。
偶然にも、私も彼と同じEdge840を持っているので、そちらの挙動を確認していきます。
「推定稼働時間」の挙動に関する実験
では、「推定稼働時間」算出の挙動に関する実験をしていきます。
実験とは書きましたが、今回はあまり手を動かすことはしていません。既に存在しているデータを確認しただけの内容です。
仮説
今回の実験で私が確かめたい仮説は「推定稼働時間の算出方法に問題があるのではないか」ということです。更に言うと、「バッテリーの劣化が推定稼働時間に全く反映されていないのではないか」と考えたのでした。

Edgeシリーズで採用されている充電式バッテリーは、使用と充電を繰り返すことによって徐々に劣化します。Edge840のバッテリー容量は新品時には1000mAhあるとされていますが、バッテリーの劣化が進むと使用可能な容量が900mAh→800mAh→……と徐々に減っていくわけですね。そうなると当然、最初は30時間動いていたサイコンも、25時間→20時間→……と稼働時間が減っていきます。
冒頭で取り上げた彼がいつEdge840を使い始めたのかは分かりませんが、発売は2023年4月。発売直後から使い始めたのだとすれば、既に3年近くが経過しています。これだけの期間を使い続けたとなると、バッテリーの劣化は不可避です。
そこで私が推測したのは、「Edge840の推定稼働時間、バッテリーの劣化を全く考慮せずに計算しているのではないか?」と、いう内容です。
以降の実験では、この仮説を検証します。
実験①: 満充電時の推定稼働時間を確認
1つ目の実験は、「満充電(100%)時の推定稼働時間の確認」です。

こちらの記事は、2023年4月のEdge 840 Solar購入直後に書いたものです。その記事の中で推定稼働時間についても言及しているのですが……当時の私はなかなか偉かったです。「設定を変えて、推定稼働時間に表示される値を記録する」ということをやっていました。その部分のスクリーンショットを以下に示します。

これは、「購入直後でバッテリーが劣化する前の状態」の記録ということになります。これに対して、「購入から3年経過してバッテリーが劣化している現在の状態」を確認し、推定稼働時間が減っていれば「バッテリーの劣化を反映している」ことになります。逆に、変わっていなければ「バッテリーの劣化が反映されていない」ということです。
さて、「衛星システム: GPS」「バックライト: 0%」の設定にして、2026年4月現在の推定稼働時間を確認すると……

はい。推定稼働時間は「58時間」で、3年前と全く変わっていませんでした。他の設定も変えてみましたが、やっぱり3年前と全く同じままです。
手元の840は、購入時に比べたら使える時間は短くなっています。バッテリーは劣化しているということです。それなのに、推定稼働時間は変わらないということは、やっぱり「Edge840の推定稼働時間はバッテリーの劣化を全く計算に入れていない」ということです。
バッテリーがフレッシュな購入直後はこの推定稼働時間通りに動いていた気がします。しかし、バッテリーが劣化した現在でも同じ推定稼働時間が出るということは、「推定稼働時間よりも短い時間でバッテリーが尽きる」ということになります。まさに冒頭に示したキャノボの例の通りですね。
実験②: 「バッテリー1%で使える時間」の変化
次に、「実際どれくらい使える時間が短くなっているのか」を確認しました。
理想としては、「残量100%からバッテリーが尽きるまでの時間」を購入当時と3年後の現在で比較することが理想です。しかし、そんなデータはないので、少し絞った条件での比較を行います。
Garminのサイコンのデータ記録形式である「.fitファイル」には様々なデータが記録されています。「FIT File Viewer」というサイトを使うと、「.fitファイル」に記録された様々なデータを取り出すことが可能です。
「この時刻に、バッテリー残量は54%だった」みたいなデータも記録されているので、このデータを使えば「バッテリー1%で何分使えるのか」を算出できます。
そこで、以下の方法で「バッテリー1%あたりの稼働時間の変化」を確認しました。
- 2023年、2024年、2025年の同じ時期の.fitデータをサイコンの履歴から取り出す。
(気温による稼働時間の影響を排除するため) - ある区間(残量74%→50%)に掛かった時間を比較する。
私は「衛星システム: GPS」「バックライト: 20%」でずっと使用しているので、これで稼働時間が短くなっていれば、それはバッテリーの劣化によるものだということが分かります。
結果は以下です。
| データ | 1%あたりの時間 | 2023比 |
|---|---|---|
| 2023-04-29 | 約29分22秒/% | 100% |
| 2024-04-20 | 約21分18秒/% | 約73% |
| 2025-03-22 | 約19分20秒/% | 約66% |
年が経過するごとに、着実に稼働時間が短くなっていることが分かります。
この数値だけから全体のバッテリー容量の減少を推測するのは少し乱暴な気はしますが、約2年で使用時間が66%にまで短くなっていることが分かりました。
最初の例で推定稼働時間が「29時間」でしたが、これは購入直後のバッテリーがフレッシュな状態の見積であることは前の実験の結果で述べた通り。しかし、仮に上記の結果のようにバッテリー容量が66%まで減っていたらどうでしょうか? 29時間×0.66=19.1時間しか持たないということになります。
現実には18時間でバッテリー切れとなったわけですが、約3年使ったバッテリーの劣化具合を考えると、有り得そうな話であることが分かりました。
結論と対策
以上の実験から分かったことと、どうすればトラブルを防げるのかについて述べます。
結論
2つの実験から分かったのは以下の内容です。
- Edge840の「推定稼働時間」はバッテリーが新品の状態を前提とした値になっており、劣化による容量減少を考慮していない。
- 使い始めて3年が経過すると、1%のバッテリー容量での稼働時間は(今回の条件では)66%まで減少する。
(劣化の度合いは各人の使用状況によって異なる点に注意) - 3年経過時の実際の稼働時間は、推定稼働時間の6割前後になってしまう可能性が高い。
今回の実験の結果からではなく一般論の話ですが、バッテリーが劣化するといわゆる「突然死」が増えます。「あと20%」と表示されているのに、次の瞬間には電源が落ちてしまうような状態です。これは、バッテリーの劣化により電圧が低下&内部抵抗が増加し、稼働に必要な電圧の最低値を下回りやすくなってしまうことによって生じていると思われます。
つまり、バッテリーが劣化した状態のサイコンは「容量が低下して稼働時間が短くなる」「十分に残量があるように見える状態から突然電源が落ちる」ということが起こりうるということです。怖い。
対策
では、この「推定稼働時間が信用できない」罠にハマらないためにはどうすればいいのか。特に、キャノボ本番や、PBPなどでこういった自体に出くわしてしまうと、それまでに積み上げた時間が台無しになってしまうことがあります。
そうならないために、いくつか対策を考えてみました。
対策①: 定期的にバッテリーの減り具合を確認しておく
まず一つ目は、残量%の減り方を定期的に確認しておく方法です。
例えば、休日のライドで、朝に満充電(100%)の状態からスタートしたとしましょう。そして1日走って夕方に帰宅した時のバッテリー残量(%)を確認します。

例えば、スタートから帰宅まで8時間として、帰宅時の残量が68%だったとします。すると、「8時間で32%消費した」ということになり、「1時間あたり4%くらい消費する」ということになります。仮に、100%から0%になるまで使えたとすれば、25時間使用できる計算です。
サイコンを1年・2年と使い続けると、バッテリーは劣化し、恐らく1時間あたりの消費%数は5%・6%と増えていくはず。半年に1回くらい、思い出したときに記録を取っておけば、「今のバッテリー劣化具合だと、満充電からxx時間は使えるはずだ」という推測が可能となります。この推測の精度は、Edgeの「推定稼働時間」よりも正確なはずです。
なお、この方法では「突然死」は予期できません。劣化したバッテリーだと、残量30%を切ったあたりからモバイルバッテリー等による充電を始めたほうが安全ではないかと思います。
対策②: 新品に買い替える
「バッテリーが劣化しているなら、劣化していないバッテリーの新品に変えればいいじゃない」という身も蓋もない対策です。

いつでも出来るキャノボに対しては「やりすぎ」感がありますが、4年に1度のPBPならばそれくらいやる価値はあるでしょう。
互換バッテリーに交換するという方法もありますが、保証が効かなくなるので注意が必要です。
対策③: 別の機種に買い替える
対策②は「同じ機種をリピート買いする」話ですが、対策③は「バッテリーが新鮮な別の機種に買い替える」方法です。バッテリーは新品になりますが、別の機種に慣れるまでの時間は必要となります。決戦ライドの数ヶ月前には買い替えておき、慣らしを行うことにはなるでしょう。
個人的なオススメはeTrex 32xです。乾電池駆動なので、バッテリーの劣化が起こりません。また、リチウム乾電池という特殊な電池を使うと約45時間稼働します。24時間で終わるキャノボであれば、確実に最後まで持つでしょう。
まとめ
Garmin Edgeシリーズ(x40世代以降)の「推定稼働時間」は、使い続けるうちに信用できなくなる……という話を書いてきました。

少なくともx40世代は、最新ファームウェアでもこの問題が残っていることを確認しています。x50世代は持っていないので確認していませんが、恐らく同じ問題は残っている気がします。


一方、同じGarminでもスマートウォッチはバッテリーの劣化を考慮しているように見えます。購入直後のスクリーンショットが偶然残っていましたが、この時は「56%で9日」でした。しかし、購入から1年半が経過した本日の推定稼働時間を見ると、「60%で7日」まで減っています。以前は「1日あたり6.2%の消費」で済んだものが、現在は「1日あたり8.5%の消費」に増えているということです。
1年半の間に計算ロジックが変わった可能性はありますが、多分スマートウォッチに関してはバッテリーの劣化を考慮に入れているように見えます。そして、スマートウォッチとサイクルコンピューターでは開発部署が違うので、推定稼働時間の計算方法も異なるのでしょう。
スマートウォッチの場合、16日使えたものが12日に減った所であまり困りはしないと思います。数日ごとに充電するでしょうし。しかし、サイコンの場合は25時間使えたものが20時間に減ると結構影響が大きい。キャノボならば最後まで持たないわけですからね。
というわけで、Edgeシリーズを使用されている方は、「推定稼働時間」を信用しすぎないようにしてください。特に、長く使っている場合には、実際の稼働時間と大きく離れた値が表示されている可能性があります。
Garminには、この推定稼働時間の計算ロジックを修正して欲しいですね。勘違いを生まないように、バッテリーの劣化を考慮した計算に変更してほしいものです。
著者情報
年齢: 41歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: GHISALLO GE-110(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。
# これまでに著者が乗ってきたスポーツ自転車の履歴はこちらの記事にまとめています。


