「ペダルのスタックハイト」の定義は2種類存在する

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ビンディングペダルの厚みを表す「スタックハイト」には、実は2種類の定義が存在することをご存知でしょうか?

本記事では、その2種類の違いと注意点について説明します。

目次

ビンディングペダルのスタックハイト

まずは「スタックハイトとは何か?」ついて述べていきます。

スタックハイトとは

「スタックハイト」という言葉は「製品の垂直方向の厚み」を指す言葉です。

自転車の世界では主に2つの意味で使われます。

自転車の世界におけるスタックハイトの用例
  1. (ビンディング)ペダル・クリートの厚み
    シューズのソール下面からペダル軸までの距離。
    または、ペダルの踏み面からペダル軸までの距離。
  2. フレームのスタック
    フレームのジオメトリにおいて、BB中心からヘッドチューブ上端までの垂直距離。
    「スタックハイト」よりも「スタック」と呼ばれることが多い。

本記事では1の「ペダル・クリートの厚み」の用例について書いています。

マニアックな用例として「ヘッドパーツのステム下のスペーサーの厚み」や、「シューズのソールの厚み」をスタックハイトと呼ぶこともあります。

ペダルのスタックハイト

ビンディングペダルの製品ページを見ると、大抵スペック一覧の中に「スタックハイト」という項目があります。

以下は、シマノ公式サイト内のPD-R9100のスペック一覧を抜粋したものです。

シマノ・PD-R9100のスペック表より

これを見ると、「PD-R9100のスタックハイトが14.6mmである」という事がわかります。

一般にスタックハイトが小さいほど足裏とペダル軸の距離が近くなるので、ダイレクト感が増すと言われています。スタックハイトが大きいとその逆になるということです。

また、スタックハイトはサドルポジションにも影響を与えます。スタックハイト15mmのペダルからスタックハイト19mmのペダルに変更したら、恐らくサドルが低く感じられるはず。そのため、サドルを4mm上げることになるはずです。

このように、スタックハイトはペダリングフィールやポジションを左右する重要な値です。

「スタックハイト」の定義は2種類?

さて、本記事の本題に入ります。

前の章で、「ペダル・クリートの厚み」にの定義について以下のように書きました。

シューズのソール下面からペダル軸までの距離。
または、ペダルの踏み面からペダル軸までの距離。

「または」と書いているので、これは一つの単語に2つの定義があるということです。

2つの定義の違い

各ペダルメーカーは大抵このどちらかの定義を採用しているのですが……この各ペダルメーカーが違う定義を採用していることがあるというのが非常に厄介なのです。

以下の画像は、シューズとビンディングペダルを接続した様子を横から見たものです。

この画像では、「厚み」を以下の3種類に分類しています。

  • (A) シューズのアウトソールの厚み
  • (B) クリートの厚み
  • (C) ペダルの厚み (ペダル軸~踏み面)

そして、前述の2つの定義の違いを、この分類を使って表すと以下のようになります。

#説明厚み
定義1シューズのソール下面からペダル軸までの距離(B) + (C)
定義2ペダルの踏み面からペダル軸までの距離(C)

定義1と定義2の違いを一言で言えば「クリートの厚みを含めるか・含めないか」ということになります。クリートの厚みは製品によって異なりますが、大体5-6mm前後。これが入るか入らないかで、全く別物の値になってしまいます。

例えば、定義1で「スタックハイト: 15mm」と書いてあるペダルAから、定義2で「スタックハイト: 13mm」と書いてあるペダルBに交換するシーンを考えてみます。ペダルAとペダルBは同じ6mm厚のクリートを使うとします。

「スタックハイトが2mm減るから、サドルを2mm下げるか」と思ってしまいそうですが、これは間違い。ペダルBはクリートの厚みを含まないスタックハイトなので、比較する場合には「13mm+6mm(クリートの厚み) =19mm」としなければならないのです。

この場合、「スタックハイトが4mm増えるので、サドルを4mm上げる」のが正解です。下げるどころか上げなければいけなかったわけです。仮にサドルを下げていたら、違和感を感じるはずですが、本人は「正しい調整をしたはずだ」と思い込んでいるので原因に気づくのが遅れてしまう可能性があります。

「どちらの定義を採用しているか」の見分け方

ペダルのスタックハイトについて、そのメーカーはどちらの定義を採用しているか? 一応、見分ける方法はあります。それは、「(いわゆる)純正メーカーか、サードパーティーか」です。

大手かつクリートもセットで販売している純正メーカーの場合、スタックハイトの定義は「クリートの厚みを含む値(定義1)」を採用することが多いです。

具体的なメーカー名を上げると以下です。

大手かつクリートもセットで販売している純正メーカー
  • SHIMANO
  • LOOK
  • TIME
  • SPEEDPLAY(Wahoo)

これに対し、純正メーカーのクリートを使用する互換ペダルを作っているサードパーティーの場合、スタックハイトの定義は「クリートの厚みを含まない値(定義2)」を採用するケースが多いです。

具体的なブランド名の一例を上げると以下です。

互換ペダルを出しているサードパーティーブランド
  • Garmin
  • ASSIOMA
  • EQUAL(Growtac)
  • Magene

昨今はパワーメーター内蔵のペダルを出すブランドも増えていますが、その多くは「サードパーティー」です(LOOKやスピードプレイは純正でも出している)。サードパーティーの場合、クリートの厚みを含まない値をスタックハイトとして掲載していることに注意が必要です。

参考として、各社の純正クリートの厚みを以下に示します。※付きの値は、筆者による実測値です。

メーカークリート種類クリート厚み
SHIMANOSPD※ 6.3mm
SHIMANOSPD-SL※ 6.3mm
LOOKKEO6.3mm
TIMEICLIC不明
SPEEDPLAY(4つ穴シューズ)0mm
SPEEDPLAY(3つ穴シューズ・アダプタ付き)3.0mm

スピードプレイの場合、3つ穴シューズにクリートを付ける場合にはアダプタが必要で、この厚みがどうやら3.0mm。そして、4つ穴シューズだとペダルの踏み面とシューズの裏面が接するそうでクリートの厚みは0mmということになります。これだとシューズの裏面がキズだらけになるので、実際に使う際には1mm程度のシムを挟むのが定跡だそうです。

代表的なペダルのスタックハイト表

全てを網羅することは出来ませんが、代表的なビンディングペダルについてスタックハイトの早見表を作りました。

スクロールできます
ブランドクリート製品名定義1定義2クリート厚備考
SHIMANOSPD-SLPD-R9100 (DuraAce)14.6mm8.3mm6.3mm
SHIMANOSPD-SLPD-R8000 (Ultegra)15.8mm9.5mm6.3mm
SHIMANOSPD-SLPD-R7000 (105)16.5mm10.2mm6.3mm
SHIMANOSPD-SLPD-R55016.5mm10.2mm6.3mm
LOOKKEOKeo Blade14.8mm8.5mm6.3mm
LOOKKEOKeo Classic 317.8mm11.5mm6.3mm
LOOKKEOKeo Blade Power Dual17.1mm10.8mm6.3mmパワーメーター内蔵
TIMEICLICXPRO 1214.7mm??
TIMEICLICXPRESSO14.7mm??
WahooSPEEDPLAYZERO8.5mm8.5mm0mm4つ穴シューズ時
WahooSPEEDPLAYZERO11.5mm8.5mm3.0mm3つ穴シューズ時
WahooSPEEDPLAYPOWER Dual-Sided13.0mm10.0mm3.0mm3つ穴シューズ時・パワーメーター内蔵
FAVEROSPD-SL互換ASSIOMA PRO RS16.8mm10.5mm6.3mmパワーメーター内蔵
FAVEROKEO互換ASSIOMA DUO16.8mm10.5mm6.3mmパワーメーター内蔵
GarminSPD-SL互換Rally RS20018.5mm12.2mm6.3mmパワーメーター内蔵
GarminKEO互換Rally RK20018.5mm12.2mm6.3mmパワーメーター内蔵
GrowtacSPD-SL互換EQUALペダル19.8mm13.5mm6.3mmスタックハイト可変(13.5-22.0mm)
MageneSPD-SL互換P715 S19.3mm13.0mm6.3mmパワーメーター内蔵
MageneKEO互換P715 K17.3mm11.0mm6.3mmパワーメーター内蔵
PowerTapKEO互換P120.3mm14.0mm6.3mmパワーメーター内蔵

ピンクで網掛けしているのは、各製品のスペック一覧に書かれているスタックハイトを示したものです。見事に純正メーカーか、サードパーティーで分かれていますね。

ちなみに、私はPowerTap「P1」でしばらく乗り続けた結果、足首を故障しました。それまでスタックハイト14.6mmのDuraAceを使っていたのに、5.7mmもスタックハイトが高いPowerTapペダルは変化が大きすぎたようでした。「スタックハイトの定義に2種類ある」と気づいたのはこの時です。

まとめ

「ペダルのスタックハイトの定義は2種類ある」ということについて解説しました。

ポジションにも影響する非常に重要な話のはずなのですが、何故かこの「2種類の定義が混在している」という件について触れているサイトや文献もないので、記事化してみました。

ペダルを選ぶ際には、「スタックハイトにクリートの厚みが含まれるかどうか」を意識して選ぶようにして下さい。ポジションで迷子になる確率を減らせるはずです。


ユーザー目線でいえば、このスタックハイトの定義は一つに統一してほしいものです。実際に大事になるのは「クリートの厚みを含む値」の方なので、そちらに統一されれば良いですね。

サードパーティーは恐らく純正メーカーへの遠慮からクリートの厚みを含めていないのだと推測しますが、悲しい勘違いでポジションが迷子になる人を出さないように、ぜひとも業界をあげて統一を進めてほしいものです。

著者情報

年齢: 41歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: GHISALLO GE-110(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。
# これまでに著者が乗ってきたスポーツ自転車の履歴はこちらの記事にまとめています。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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