PFAS規制に伴うGORE-TEXの仕様変更と、旧製品を確保した理由

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3着目のmont-bell「サイクルレインジャケット」を確保しました。世界的なPFAS規制に伴い、旧GORE-TEX製品がそろそろ入手できなくなることが理由です。

本記事では、PFAS規制とそれに伴って発生した新しい防水透湿素材の開発競争について触れていきます。

目次

導入

先日、モンベルのサイトを眺めていたら「あること」に気づきました。

サイクルレインジャケットの素材が変わった

その「あること」とは、モンベルの定番レインウェア「サイクルレインジャケット」が刷新されていたことです。

「ブルベの制服」とも呼ばれるほど、多くのランドヌールが愛用するサイクルレインジャケット。これまでは防水透湿素材として「GORE-TEX」を採用していたのですが、本モデルは「スーパードライテック」というモンベルのオリジナル素材を採用。カラーも刷新されていました。

これを見て私は「ついに来たか」と感じました。

PFAS規制と素材変更

その予兆は数年前から始まっていました。一般に「PFAS規制」と呼ばれるものです。

PFASとは、つまり「有機フッ素化合物(炭素とフッ素が結合したもの)」のこと。PFASは非常に安定しており、自然には分解されません。このため、一度排出されたPFASは食物連鎖を通じて生物の体内に蓄積されます。最終的に人体にも蓄積され、さらにこれが有害であるということで、昨今は規制の動きが強まっています。

そして、旧来のGORE-TEX(以降、旧GORE-TEXと呼ぶ)は、メンブレン(防水透湿膜)と撥水コーティング剤にPFASが使用されています。旧GORE-TEX製品は、製造時にPFASが周囲に排出されるという問題がありました。

これを受け、PFASを使用していた旧GORE-TEXの生産は2025年をもって終了。現在は、全製品がPFASを使わない新GORE-TEXへと移行しています。

てっきり、モンベルのサイクルレインジャケットも新GORE-TEXに移行するのかと思っていましたが、モンベルは自社素材を使うことを選びました。

そして、新しいサイクルレインジャケットが出たということは、旧サイクルレインジャケットは「市場在庫を残すのみ」であるということです。

あわてて市場在庫を確保

2025年12月の初旬は、モンベルの店頭に旧サイクルレインジャケットの在庫が結構残っていました。「よしまだ買えるな」と思っていたのですが。

2月上旬、サイクルレインジャケットの素材が変わったことに気づいてネット通販の在庫を見てみると、大きいサイズは全滅。小さいサイズも少ない数を残すのみ。すでに市場在庫は尽きかけていることに気づきました。

あわてて近所のモンベルへ。ショップの方に説明して他店在庫を調べてもらうと、「長野に在庫がまだありますね」とのこと。関東からはすでに全滅していたようです。他店取り寄せも可能だということだったので、取り寄せをお願いしました。

2/10、取り寄せて頂いた「旧サイクルレインジャケット」を引き取り。

これで私が持っている旧サイクルレインジャケットは3着。初代(グリーン)と、予備(サンセットオレンジ)と、予備の予備(レッド)。

初代は2016年に購入したもので、すでに撥水性はほぼ失われています。さっさと予備を下ろしたかったのですが、貴重品なので中々決心が付かず。しかし、予備の予備を入手出来たので、ようやく予備を下ろす事ができるようになりました。

なぜそこまで私が旧サイクルレインジャケットにこだわるのか。次章では、その理由に深く関わるPFAS規制について詳しく見ていきます。

PFAS規制と、近年の防水透湿素材事情

ここからは、近年のPFAS規制の流れと、それに伴う防水透湿素材周りの事情について見ていきます。

PFAS規制の始まりと強化

前の章で書いた通り、世界的にPFAS規制が強化されつつあります。

2000年代前半から「有機フッ素化合物を規制したほうが良いのではないか」という議論はありましたが、それが決定的となったのは2020年に発行されたストックホルム条約からであると思われます。この条約では、PFOAの原則禁止が定められました。

PFOAは、PTFE(テフロン)を生成する際に使用する物質です。このPFOAを使用できないということは、PTFEの生産ができなくなるということです。

追記(2026/2/14)
読者の方から貴重な補足情報をいただきました。
PFOAについては2015年頃からメーカーによる自主規制が進んでおり、PFOAを使わずにPTFEを製造するプロセスも確立されていたようです。
素材変更の決定打となったのは、2023年に発表された欧州REACH規制の「PFAS一括制限案」です。これにより、製造プロセスにかかわらず「PTFEそのもの」が将来的に規制対象となる可能性が極めて高くなりました。各企業はこの流れを受けて「脱PTFE」への移行を加速させていると考えられます。

この規制で大打撃を受けることになったのがGORE-TEX。なぜなら、GORE-TEXの核となる防水透湿素材は、PTFEを薄く伸ばして作ったもの(ePTFE)だからです。PTFEが生産できなければ、従来のGORE-TEXは生産できません。

GORE-TEXは、1970年代に開発され、以降約50年間「最強の防水透湿素材」としての地位を保ってきました。

「最強」はすぐに研究され陳腐化するのが世の常。近年ではゾルトラークという便利な言葉がありますが、普通は50年も経てばライバルに研究しつくされ、陳腐化し、やがて一般化します。しかし、GORE-TEXは陳腐化すること無く最強の地位に50年間君臨した珍しい例です。地道な改良と巧みな囲い込み戦略によって、高い性能とブランド力を保ってきたと言えるでしょう。

しかし、その最後はライバル素材の出現ではなく「国際的な規制によって止めを刺される」という思いもよらぬ形となったのです。

新GORE-TEXへの移行

しかしGORE社もただ手をこまねいていたわけではありません。

規制が実際に開始される前から、PTFEを使わない新素材への移行検討を開始していました。

2021年には、延伸ポリエチレン(ePE)を採用した、新しいGORE-TEX(以降、新GORE-TEXと呼ぶ)を発表。2022年秋冬モデルから、実際にこの新GORE-TEXを採用した製品が販売され始めました。

2022~2024年頃は、まだ旧GORE-TEXも生産済の分が残っていたためか、しばらくは新GORE-TEXと旧GORE-TEXの製品が同時に販売される状態が続いていました。旧GORE-TEXを採用していた製品がモデルチェンジすると、新GORE-TEXになっているケースもあれば、別の素材の採用へと舵を切るケースもありました。

イマイチ広まらない新GORE-TEX

こうしてPFAS規制によりePEを採用した新GORE-TEXが出回り始めたわけですが、評判は芳しくありません。

昨年の夏、パシフィコ横浜で開かれたモンベルのフレンドフェアに行きました。そこにはGORE-TEXの解説ブースもあったのですが。

「次世代」と書いてありますが、先述したePEの新GORE-TEXを指します。展示では「高い耐久性・信頼性はそのまま」と書いてあったのですが、ブースのスタッフの方に聞くと「劣化した面もある」という話を説明してくれました。

スタッフ

旧GORE-TEXは素材そのものが水と油を弾く性質がありました。撥水性と撥油性ですね。
新GORE-TEXは、撥水性はあっても撥油性がないんです。つまり、皮脂汚れなどによって性能が低下する可能性が高い。なので、これまでよりも洗濯の頻度を増やし、メンテナンスに気を使う必要があります。

旧GORE-TEXと新GORE-TEXのスペック差は撥油性だけではありません。耐水圧と透湿性にも変化があります。

かつての登山用最軽量モデルで旧GORE-TEXを採用していた「トレントフライヤー」は、新GORE-TEXの採用に伴い「ピークシェル」と名前を変えました。そのスペックを比較してみます。

正確にはトレントフライヤーも継続しているんですが、若干ブランド内での立ち位置が変わっています。実質的な後継はピークシェルだと思われます。

製品名防水透湿素材耐水圧透湿性
旧トレントフライヤー旧GORE-TEX
(ePTFE)
50000mm以上44000g/m²・24hrs
ピークシェル新GORE-TEX
(ePE)
20000mm以上20000g/m²・24hrs

見て分かる通り、耐水圧も透湿性も低下しています。旧GORE-TEXの耐水圧は正直オーバースペックで20000mmもあれば実用上は十分と言えるのですが、透湿性の低下が気になります。

旧GORE-TEXの素材であるePTFEは高温に強いですが(融点は300℃以上)、新GORE-TEXの素材であるePEの融点は130℃前後である可能性が高く、当て布をせずにアイロンを掛けるとメンブレン自体が溶けてしまう可能性があります。高温の乾燥機もちょっと怖いですね。

もっとも、旧GORE-TEXも熱に強いのはePTFEのメンブレンだけです。表地のナイロンや、裏地のシームテープはそこまで熱に強いわけではないので、旧GORE-TEXにアイロンがけをする際も当て布はしましょう。

もちろん性能が下がっているだけではなく、良くなっている面もあります。旧GORE-TEXは「伸びない」素材でしたが、新GORE-TEXは従来よりも薄く(約半分)しなやかに仕上がっています。動きやすさは向上していると言えるでしょう。

ただ、防水透湿ウェアの本分である性能は落ちている上に、メンテナンス頻度も上げなければならない点を考えると、ウェアメーカーやユーザーの反応が悪いのも頷けます。

この時のフレンドフェアでは歴代ストームクルーザー(モンベルの定番レインジャケット)の展示がありました。これまでは長いことGORE-TEXを採用していましたが、最新世代ではモンベル自社素材のスーパードライテックを採用。

ShakeDry採用の製品をいち早く売り出すなど、蜜月ぶりが伺えたGORE社とモンベルでしたが、この「ストームクルーザーのスーパードライテック採用」というあたりから少し疎遠になり始めていたのかもしれません。

そして、旧GORE-TEXを長年採用してきた「サイクルレインジャケット」も、自社素材である「スーパードライテック」への切り替えに至ったわけですね。

ポスト・GORE-TEX戦国時代

50年間の栄華を誇ったGORE-TEX。しかし、その絶対王者もPTFEを封じられて弱体化することは周囲の素材メーカーも認識していました。

これを好機と見て、ライバルメーカーによる新興素材の開発や、旧来から存在する素材のアップデートが次々に実施されました。世は「ポスト・GORE-TEX戦国時代」の真っ只中であると言えます。

次世代の天下を取りそうな有力素材について、以下に比較表を作ってみました。

スクロールできます
素材名メンブレン材料膜の構造耐水圧
[mm]
透湿性
[g/m²・24h]
通気性
[CFM]
採用ブランド
(自転車系)
GORE-TEX(ePE)ポリエチレン多孔質28,00025,000〜0Rapha
Pertex Shield Airポリウレタンナノファイバー10,00040,000〜0.4PNS
Polartec AirCoreポリウレタンナノファイバー5,00035,000〜0.7-1.0Castelli
Sportful
Dermizax EPUポリウレタン無孔質20,00030,000〜0
LIFA INFINITYポリプロピレン多孔質20,00020,000〜0.1
eVent BIO植物由来ポリマー多孔質20,00025,000〜0.2Universal Colours

中でも、自転車用レインウェアで注目を集めているのがPolartec「AirCore」です。現状ではCastelliとSportfulが独占的に使用する契約のようですが、来年から一般にライセンスが開放される予定となっています。

AirCoreのアプローチは、これまでの「耐水圧至上主義」とは一線を画し、「通気性重視」という姿勢を取っているのが特徴です。従来の防水透湿素材の多くは湿度差を利用した「平衡」で湿気を逃がしていたのに対し、AirCoreは若干の風を通すことで効率良く湿気を追い出す特徴があります。

高い耐水圧よりも「衣服内の熱気が飽和する前に物理的に空気を入れ替える能力(通気性)」を重視することで、結果的に快適性が高まる……というロジックですね。

私もAirCoreを採用したCastelliのジャケットをテストしましたが、確かに蒸れにくさでは最強と言えるでしょう。耐水圧は5000mmとかなり低いので、それがブルベのような現場ではどうなのか、これから検証していく予定です。

PFAS規制によって、旧GORE-TEXという最強の王者は姿を消しました。しかしそれは同時に、高耐水圧という一つの物差しに縛られていた防水透湿素材の世界に、より実戦的で多様なアプローチを生み出すきっかけになったとも言えます。

同時にそれは「ユーザーが意志を持って選ばねばならない」ということでもあります。これまでは「とりあえずGORE-TEXを選んでいればOK」でしたが、今後は自分の用途に合った素材を使ったレインウェアを選んでいく必要があります。自分のライドスタイルに合わせた素材の「素性」を見極める能力が求められる時代が来たと言えるでしょう。

まとめ

旧GORE-TEXのウェアを買い足した話と、PFAS規制に伴う防水透湿素材の現状についてお話しました。

なぜ今、旧GORE-TEXのウェアを私は買い足したのか。それは、「ポストGORE-TEX素材は、現状では旧GORE-TEXに及んでいない」という判断からです。今後の技術の進歩によって旧GORE-TEXを超える素材が出てくる可能性がありますが、現状ではどれも見劣りする印象です。そこで「今後入手できなくなる最強の防具」たる旧GORE-TEXのウェアを抑えに走ったわけですね。

同時に、自分のライドスタイルに合った新素材のテストも始めています。AirCoreは運動強度が高いレース的な使い方には良さそうですが、割と寒さに耐える時間の長いブルベに合うかどうかは未知数です。通気性を持たず、もっと透湿性と耐水圧の高い素材のほうが合っていることになるかもしれません。そこはこれからの検証次第ですが。あと、ポリウレタンは加水分解するので、賞味期限が短いのも気になりますね。

旧GORE-TEX製品は、もう生産されることはありません。今、市場にあるものが全てです。「最強の防具」を入手しておきたい方は、今すぐにでも抑えることをオススメします。


なお、本日タイムリーなことにこんなニュースが入ってきました。

現在開催中の冬季五輪で、スノーボード選手がフッ素検出によって失格となったニュース。PFAS規制によって、スノーボード競技では2022年からPFASを含むワックスの使用を禁止。それが検出されたために失格となったということのようです。

自転車用のチェーンオイルでもPFASを含むものはありますし、今後「使用したら失格」なんて事案が出てくる可能性もありますね。

著者情報

年齢: 41歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: GHISALLO GE-110(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。
# これまでに著者が乗ってきたスポーツ自転車の履歴はこちらの記事にまとめています。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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