ロードバイクのリム内幅推移とタイヤ幅への影響

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Vittoriaから「内幅25mm用の29Cタイヤ」が発売となりました。今後のロードタイヤの動向に影響を与えそうな製品なので、これまでの推移と現状について整理しておこうと思います。

目次

まえがき

まずはこの記事を書くきっかけとなった出来事について書いていきます。

「内幅25mm用の29Cタイヤ」の発売

3/10、Vittoriaから「新仕様」のタイヤが発売されました。「新製品」ではなく「新仕様」です。

既存のタイヤ(Corsa Pro/Corsa Pro Speed/Corsa N.EXT)の、「内幅25mmのリムに最適化された29C」バージョンです。

Vittoriaはプロチーム「ヴィスマ・リースアバイク」へのタイヤ供給を行っていますが、このチームが使っているホイールはReserveというブランドのもの。そして、Reserveのホイールは「前輪の内幅25.4mm/後輪の内幅24.8mm」という特徴があります。通常は内幅21mm、広めのチームでも内幅23mmです。内幅25mmというのは相場よりかなり広いと言えます。

少し前からヴィスマのバイクに装着されていた「謎の29Cタイヤ」と話題になっていた製品が今回発売になったというわけですね。

発売されたのは以下の3本です。

スクロールできます
製品名太さシステム
Corsa PRO Wide Rim Optimized700x29CTLR
Corsa PRO Speed Wide Rim Optimized700x29CTLR
Corsa N.EXT Wide Rim Optimized700x29CTLR

いずれも太さは29C&TLRのみでの展開です。従来のVittoriaのタイヤには28C/30Cは存在していましたが、29Cというのは存在していませんでした。

タイヤの国際規格であるETRTOでは、29Cは30Cと同じカテゴリに入っています。

リム内幅とタイヤ幅の関係

さて、リムに取り付けた時のタイヤ幅は、リムの内幅と相関があります。

基本的には、内幅が広いほどリムに取り付けた時のタイヤ幅は太くなります。だいたい、内幅が2mm広くなると、タイヤは1mm太くなると言われています。

もう一つ知っておいてほしいのは、「タイヤには設計ターゲットとなっているリム内幅が存在する」ということ。製品パッケージに書かれている「28C」という表記サイズは、「設計ターゲットとなっている内幅のリムに取り付けた時にタイヤ幅は28mmになりますよ」ということです。ターゲットの内幅より細いリムに付ければタイヤ幅は細くなりますし、ターゲットの内幅より太いリムに付ければタイヤ幅は太くなります。

こちらはAGILEST FAST TLRのパッケージに印刷されているサイズ適合表です。

この表の中で赤文字になっているのは「設計ターゲットとなっている内幅」の場合を表しています。25Cタイヤと28Cタイヤは内幅19mmのリムをターゲットに設計されており、30Cタイヤと32Cタイヤは内幅21mmのリムをターゲットに設計されているということです。

ここで、例えば「700-30C」のタイヤについて考えます。30Cタイヤは、2020年に改定されたETRTO(いわゆるETRTO2020)で「内幅21mmに取り付けた時にタイヤ幅30mmになるように設計すること」が勧告されました。

ETRTO2020制定翌年の2021年以降に発売されたほとんどのタイヤは、この勧告に準拠した設計となっています(MICHELINなど一部ブランドは例外)。

では、AGILEST FAST TLRの30Cを、Reserveのホイール(内幅25mm)に取り付けた時にどうなるか。上の適合表を見ると、「タイヤ幅は32mmになる」ことが分かります。30Cタイヤなのに32mmになってしまうわけです。膨らんだ後のタイヤ形状は、タイヤメーカーの考える最適な形状とは異なるはずで、本来の性能を発揮しない可能性があります。

同様に28Cタイヤの場合は31mmになるはずですが、上記の表では「×」となっています。これは「非推奨な組合せ」であるということ。通説ですが、「タイヤの公称幅とリム内幅の差が5mmを切ると、タイヤが外れやすくなる」とも言われています。28Cと内幅25mmでは差が3mmしかなく(取り付け後の幅で言うと6mm違いですが)、避けるべき組合せということです。

Vittoriaはいち早くETRTO2020に準拠したブランドとしても知られており、上記のAGILEST FAST TLRの話はVittoriaのCORSAにも言える話であるということ。タイヤが本来の性能を発揮しない形状になったり、外れやすくなったりするというデメリットが生じる可能性があります

Wide Rim Optimizedの意義

そこで意味を持ってくるのが、今回Vittoriaが発売した「Wide Rim Optimized(内幅25mm用の29C)タイヤ」です。

このタイヤは内幅25mmのホイールに付けた時に最適な形状になるように設計されています。外れやすさについても当然考慮されているはず。

Vittoria公式サイトにあるこちらの記事によれば、さらに空力性能も良くなる効果もあるとのこと。

Vittoria公式サイトより引用

こちらが公式サイトの空力性能向上の説明図。右側の図では「タイヤ幅とリム外幅がほぼ一致していて空力が良い」とされているようなのですが……このタイヤを取り付けた場合のタイヤ幅は29mmになるはず。そう設計しているのだから。

しかし、ターゲットとして開発されたはずのReserveのリム外幅は34.4mm。リムのほうが5.4mmも太くなってしまうわけです

随分前にZippが提唱したらしい「105%の法則」では「タイヤ幅よりもリム外幅が5%以上太い方がエアロ」とされていた様子。リムのほうが狭いとNGですが、太い分には空力的には問題なさそうなので、Vittoriaとしては狙い通りなのかもしれません。

Cyclowiredの記事によれば、以下のような効果があるようです。

具体的にはワイドリムとCorsa Pro 29Cの組み合わせは、19〜21mm幅のリムx28Cよりも55km/h走行時に最大5ワット分の転がり抵抗とエアロダイナミクスのアドバンテージがあるという。

「脱ETRTO2020タイヤ」の第一号

個人的に驚いたのはこのタイヤの性能ではなく、「ついにETRTO2020よりもワイドな内幅を想定したタイヤを出すメーカーが現れた」と言うこと。今までそういったタイヤは、私が知る限り存在していませんでした。

ETRTO2020の制定で一旦はリムとタイヤの規格は安定するかと思われました。

しかし、ホイールメーカー側はリム内幅の拡大を継続。内幅19mmが主流だった時代は一瞬で過ぎ去り、内幅21mmのホイールが徐々に主流に。最近では内幅23mmのロードホイールも珍しくはなくなりました。先に上げたように、内幅25mmのReserveなんてのもあります。

これに対し、タイヤメーカー側はETRTO2020に準拠したタイヤの製造を継続。28Cタイヤは内幅19mmを前提に、30Cタイヤは内幅21mmを前提に設計されています。タイヤメーカーは、より広い内幅のリムに対応したタイヤを作ろうとはしなかったわけです。

細かい話をすると、GoodyearがZIPPのホイール専用のタイヤを発売した例はあります。ただ、これは汎用的なタイヤではなく「ホイール専用タイヤ」なので例外と考えています。

かくして、ホイール側とタイヤ側にミスマッチが生じているのが2025年3月現在の状態。

そんな中、「脱ETRTO2020」タイヤの第一号として現れたのが、本記事で取り上げたVittoriaのWide Rim Optimizedタイヤ。もしもこのタイヤがヒットすれば、他のタイヤメーカーも追随する可能性があります。

「タイヤメーカー側の、脱ETRTO2020の流れが始まるキッカケになるかも」……と思ったことが、この記事を書きはじめた理由です。前置きがめちゃくちゃ長くなりました。

ロード用ホイールのリム内幅推移

前章で、「ホイールメーカー側はリム内幅の拡大を継続」と書きました。ここからは、その内幅拡大の推移を見ていきます。

2020年にこんな記事を書きました。以降はこの記事を下敷きに、2020年以降の話についても書いていきます。

サイスポホイールインプレの内幅平均値

以下に示すのは、サイクルスポーツ誌が定期的(1-2年に1度)行っている、ホイールインプレッション企画に登場したクリンチャーホイールの内幅の平均値をグラフ化したものです。

内幅15mm以下の時代

私がロードバイクを初めて購入したのは2009年。この頃のタイヤ幅は23Cが普通でした。クリンチャーリムの内幅は13-15mmが普通で、ここから外れるホイールはほぼ無かったと記憶しています。

ホイール側

2014年購入のCampagnolo「EURUS」。内幅は15mm。

Campagnolo・Fulcrum・MAVICなどは内幅15mm、SHIMANOやSPINERGYは内幅13mmが多かったはず。カーボンクリンチャーホイールの一部(Rolfなど)が内幅17mmのモデルをラインナップしていましたが、相当の少数派でした。

タイヤ側

2011年キャノボ挑戦時の装備。GP4000Sの23Cを履いている。

この頃主流だった23Cタイヤは当時のETRTOに則り、「内幅15mmのリムに取り付けた時にタイヤ幅が23mmになる」ように設計されていたはず。一部でブームとなっていた25Cタイヤも内幅15mmをターゲットにしていたと思われます。

そもそもこの頃はチューブラーリムのほうが主役であり、クリンチャーリムは脇役に過ぎなかったと思います。内幅が話題になることがそもそも稀でした。

2014年頃まではその時代が続きました。

内幅17mmの流行

2015年頃からカーボンリムを中心に「内幅17mm」を採用するクリンチャーホイールが登場してきました。当時、流行り始めていた25Cタイヤに最適化されている、ということがアピールされていたと思います。

2025年現在ではロードバイクにおけるワイドリムと言うと「内幅23-25mm」を思い浮かべることが多いと思いますが、当時はたった2mm増えただけの内幅17mmがワイドリムと呼ばれていました。

ホイール側

2016年のサイスポのホイールインプレ特集では、さかんに「ワイドリム」という言葉が登場。特集の最後には、下記のパターンを組み合わせて乗り味を比較するという試みも行われています。

  • ナローリム(内幅15mm)×23Cタイヤ
  • ワイドリム(内幅17mm)×23Cタイヤ
  • ナローリム(内幅15mm)×25Cタイヤ
  • ワイドリム(内幅17mm)×25Cタイヤ

この中でインプレライダーの安井さんは、「ワイドリム×25Cタイヤ」に対して「走りが重い!」というコメントを残しています。同時に「どこかでナローリム×23Cに戻るのではないか」とも予想されていますが、歴史はそうなりませんでした。

2017年発売のFulcrum「Racing3 C17」。内幅17mmを採用。

2017年には、Campagnolo・Fulcrum・Mavicと言った大手三者が一斉に内幅17mmのアルミクリンチャーホイールを発売。旧来の内幅15mmと区別するため、製品名には「C17」というキーワードが追加されました。

タイヤ側

内幅17mmのホイールと同時期から、タイヤ側にも変化が現れます。「内幅17mmのリムに取り付けた時にタイヤ幅が25mmになる」25Cタイヤが登場してきたのです。

それ以前にも25Cタイヤは存在していましたが、ターゲットの内幅は15mm。そういった25Cタイヤを内幅17mmのリムに取り付けると少し太くなってしまうはず(+1mmの26mm程度)。そこで、内幅17mmのリムに付けた時に最適な形状となるように設計されたタイヤに需要が生まれてきたわけです。

BRIDGESTONE「R1X」。内幅17mmリムに付けた時に25Cになる設計だった。

私の知る限り、いち早くこの設計を取り入れていたタイヤがBRIDGESTONEのR1シリーズです。

2015年に発売されたEXTENZA R1シリーズ。その特徴は「異常な軽さ」でした。

それまでの25Cタイヤの重量は230-240gが相場。そんな中、R1Xの25Cタイヤの重量は190g。耐パンクベルトを省いたわけでもないのに一気に40g軽くなった理由は、恐らく「ターゲット内幅を17mmにしたから」。

タイヤを広げた時の幅が「ケーシング幅」。ターゲット内幅を広げると、ケーシング幅は細くなる。

一般に、ターゲット内幅を広げると、タイヤのケーシング幅は細くなります。内幅15mm→17mmに変更すると、ケーシング幅は4mmほど細くなるケースが多いです。ケーシング幅が減ればタイヤの重量は当然減ります。相場よりも40gも軽くなった理由は恐らくこのため。

2015年以降に発売された25CタイヤはR1Xほどではないものの、それまでの25Cタイヤよりも軽量なものが増えました。各社は特に明言していませんでしたが、これらのタイヤはターゲット内幅が17mmに変更されていたはずです。

内幅19-21mmの一般化

2018年、UCIがディスクブレーキのレース使用を正式許可。2020年、ETRTOが大幅改定(ETRTO2020)。

これらの出来事により、一気にタイヤ幅・リム幅の自由度が増すことになりました。タイヤ・ホイールの双方が更に太くなる方向へと変わっていきます。

また、ディスクブレーキが主役になると、徐々にレースでもチューブレスタイヤが主流に。チューブラーリムをラインナップするブランドも少なくなりました。

ホイール側

2018年のUCI認可を皮切りに、各フレームメーカーは一気にディスクブレーキ化に舵を切りました。それまでのリムブレーキではキャリパー側の制限で28Cタイヤが事実上の上限でしたが、ディスクブレーキ化により32C前後の太いタイヤが使用可能となりました。

これに伴い、ホイール側もディスクブレーキ用がメインに。そしてディスクブレーキでは制動力のネガが無いことからリム素材もカーボンがメインになっていきます。

2020年発売のFulcrum「Racing Zero Carbon DB」。内幅は19mm。

ETRTO2020では、「25-28Cタイヤのターゲット内幅は19mm」「30-32Cタイヤのターゲット内幅は21mm」という勧告がなされ、この頃から内幅19mm/21mmのホイールが定着。デファクトスタンダードとなりました。

タイヤ側

前述の通り、ディスク化によりタイヤサイズの制限がかなりゆるくなりました。「タイヤ幅がある程度太いほうが転がり抵抗が低くなる」「タイヤ幅が太いほうが空気圧を下げられるし乗り心地も良い」ということから、28Cタイヤが事実上のメインとなっていきます。

2022年頃からはETRTO2020の勧告に準拠したタイヤが販売され始めました。「内幅19mmのリムに取り付けた時にタイヤ幅が28mmになる」「内幅21mmのリムに取り付けた時にタイヤ幅が30mmになる」というタイヤですね。

2022年発売のPanaracer「AGILEST」はETRTO2020に対応。

この頃のディスクロード用ホイールのリム内幅は大抵19mm/21mmであったため、28C/30Cタイヤを使うのに適した条件が揃ったと言えます。

2024年11月にTwitter上で実施したアンケートでは、28C以上のタイヤをメインで使っている方の割合がほぼ50%でした。23C以下を使っている人は今やほとんどいません。

内幅23-25mmが登場もタイヤは付いてこない

内幅19mm/21mmのリムと、それに適した設計の28C/30Cタイヤ。これでしばらくは落ち着くかと思ったのですが、リム側の内幅拡大は止まりませんでした。

リム側

しばらくは内幅21mmを超えるホイールはほとんど存在しなかったのですが、2023年頃から「内幅23mm」というホイールが登場します。

フックレスを除けば、内幅23mmにいち早く対応した大手ブランドはFulcrumでした。2023年初頭に発売された「SPEED 42/57」は内幅23mmを採用しています。この時期、CORIMAやPRIMEからも内幅23mmのホイールが発売されました。Fulcrumの姉妹ブランドであるCampagnoloも、その翌年にBORA ULTRAの内幅を23mmに拡大しました。

極めつけが、冒頭に紹介したReserveのホイール。内幅25mmは2025年現在でもロードホイールとして最大クラスです。

2024年発売、YOELEO「SAT NxT SL2」は内幅23.4mm。

また、2023年頃から日本国内で増えてきたのが、いわゆる「中華カーボンホイール」。それまでも存在はしていたものの、「知る人ぞ知る」という位置付けでしたが、直販サイトの増加やインフルエンサーマーケティングの効果か、近年はかなり一般化しています。

中華カーボンホイールは大手ブランドに比べると製品のリリースサイクルが早く、リム内幅の拡大もハイペースで進んでいます。内幅23mm/24mmのホイールも今や珍しくはありません。

タイヤ側

ホイール側が内幅を拡大する一方、タイヤ側は静観を続けていました。ターゲット幅の設定は変えず、ETRTO2020に準拠したタイヤを作り続けたわけです。内幅15mm→17mmの時はホイール側にすぐに追随したにもかかわらず、今回はそういった流れには乗りませんでした。

そんな中、2025年に登場した「脱ETRTO2020」のタイヤ第一号が、本記事の冒頭で紹介したVittoriaの「Wide Rim Optimized」タイヤです。

まとめ

VittoriaのWide Rim Optimizedタイヤをフックに、ここ10年ほどのリム&タイヤのワイド化について推移を紹介しました。

私の認識では「内幅15→17mm」への移行が本格的に始まったのが2015年ごろ。ここからたった10年でリム内幅とタイヤ幅がこんなに拡大するとは想像もしていませんでした。

ここ数年はタイヤ側がその流れを食い止めていた感はありますが、Vittoriaが「脱ETRTO2020」タイヤを発売したことで、また拡大に向けて動き出すのでは、と考えています。他タイヤメーカーが続くのか、注目です。

もしかしたら、そろそろETRTOも大幅改定されるかもしれませんね。前回の大改定から5年経ちますし、その間にかなり状況も変わりましたので。

著者情報

年齢: 40歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: GHISALLO GE-110(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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