Yoeleo「SAT DB PRO NxT SL2」ファーストインプレッション

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Yoeleoのカーボンホイール「SAT DB PRO NxT SL2(以下、SAT NxT SL2)」を1ヶ月間レンタルし、レビューすることになりました。

本記事では開封~少し乗った時点でのファーストインプレッションを書いていきます。

本記事でレビューするSAT NxT SL2は、Yoeleo Japanからお借りしたものです。1ヶ月間の使用後、返却予定です。

目次

レビューの経緯

まずはこのホイールをレビューすることになった経緯から。

DMでのレビュー依頼

昨年12月のある日、Yoeleo JapanからDMが届きました。

新しくなった「SAT NxT SL2」をテストして欲しいとのご依頼。しかし、この段階でElitewheelsのホイールのレビューを受諾しており、家の中にはホイールを置く場所がない状態でした。年が明けて1月の1ヶ月はElitewheelsのホイールをテストする約束もあります。

とはいえ、Yoeleoのホイールも一時期気になっていたこともあり、せっかくなのでレビュー依頼を受諾させていただくことにしました。

Elitewheelsのホイールと同時に家に置くことはスペース的に無理なので、「2月中旬からの1ヶ月間のレンタルでお願いします」と希望を出しました。Yoeleo側からも承諾頂き、2月中旬にホイールを送っていただくことになりました。

希望したホイール

SAT NxT SL2には、35mm/50mm/60mm/88mmの4種類のハイトがあり、前後で自由に組み合わせて注文することが出来ます。

今回、私は以下の仕様を希望しました。

  • 前輪: 35mmハイト
  • 後輪: 50mmハイト

このハイトにした理由は、アルテホイールを同様の組合せ(前36mm/後50mm)で使っていたからです。シャマルカーボンも前35mm/後40mmということで、横風耐性を含めて比較もしやすいだろうと考えました。

私のメイン用途であるブルベでは、空力性能を十分に発揮するシーンは多くありません。それよりは横風に強いほうが優先度が高くなります。横風耐性に関係あるのは前輪だけなので、前輪を35-40mm、後輪を50mmハイトにするのが私の中での定跡です。

SAT NxT SL2 ファーストインプレッション

2月中旬、ホイールが佐川急便で届きました。

本記事執筆時点での使用距離は約270km。主な用途はブルベ・夜練です。

パッケージ内容

中国・厦門(アモイ)が発送元ですが、国内配送は佐川急便でした。レンタル品ではありますが、普通に購入した時と同様のパッケージ内容であると思われます。

箱には大きな「自律」の文字。裏側には「自由」と書かれています。Yoeleoのキャッチフレーズのようで、ホイール側にも漢字のデカールが貼られています。ちなみに、箱はかなり厚みがあって重いです。

梱包はなかなか厳重です。箱の丈夫さと共に、「無事に届ける!」という姿勢を感じます。

付属品。長さの違うスペアスポーク(ニップル無し)が3本、UCI認証を表すシール、そしてバルブエクステンダー。

この手のホイールにはチューブレスバルブが付属することが多いのですが、本製品には付属しません。ただ、Elitewheelsの付属チューブレスバルブはあまり品質が良くなかったので、iRCやPanaracerのチューブレスバルブを自分で買ったほうが間違いはないようにも思えます。

ホイール各部

ホイールの各部を見ていきます。

リム面

T800カーボンを採用したリム。マット仕上げです。個人的にはグロス仕上げのほうが好きです。汚れが付きにくいので。

バルブホールの下には、箱と同じく「自由」「自律」のデカールが。

リム表面をよく見ると、斜め(写真では左上から右下方向)に繊維のラインがあることが分かります。これは、Yoeleoが誇る「フィラメントワインディング製法」によるものだと思われます。

こちらのツイートの動画のように、機械を用いてカーボンをリムに巻き付けていく方式だそうです。手作業でやるよりも無駄な重ね合わせが減り、軽量化と品質の均一化に貢献するのだとか。

ハブ

前輪ハブ。筒部分が極端に細いわけではないですが、ラジアルスポークの間を肉抜きするなど、かなり軽量化に気を使っている印象です。ベアリングについては特にスペック表に言及がありませんが、恐らくTRIPEAKのスチールベアリング。

後輪ハブ。36Tのスターラチェット採用です。フリーボディーを引っ張れば抜けます。

スプロケ取り付け部分はアルミ製ですが、鉄プレートによる食い込み対策済み。細かい部分にも肉抜きがされていて、軽量化に対する執念を感じます。

スポーク

スポークは、Pillar社のWING 20スポークを採用。HUNTのホイールなどでも使われているスポークですね。

予備スポークの重量を計測。長い方は4.8g、短い方は4.5g。ステンレススポークとしては標準的な重量だと思います。

前輪は、ドライブ側がラジアル、ノンドライブ側がクロス。左右とも12本ずつで1:1の本数です。

ドライブ側をラジアルで組むとスポークテンションを低くせざるを得ず、テンションの左右差が大きくなって緩みやすくなります。ドライブ側をクロスにするオーソドックスな組み方のほうがテンションの左右差は減るはず。

「1:1でドライブ側ラジアル」はあまり良い組み方とは思えませんが、恐らく軽量化のためにそうしているのでしょう。ハブの構造もシンプルで済みますし。ただ、それならば2:1にすれば良かったのでは?とも思いますが。

後輪は、左右ともにクロスで12本ずつのオーソドックスな組み方です。

リムベッド

内幅は公称23mm、外幅は公称32mmと、先端の形状を採用。フックあり。

実測結果は、内幅23.4mm、外幅31.8mmでした。

個人的には、「現段階で」内幅23mmはちょっと広すぎだと考えています。それは、まだタイヤメーカーが内幅19mm前提の設計(28Cタイヤの場合)から動いていないからです。30Cタイヤは各社内幅21mmを前提に設計しているので許容範囲だと思われますが、今の28Cタイヤを内幅23mmに付けるとタイヤメーカーの想定したベストな形状からは離れるはずです。

ただ、そろそろ「内幅23mmに最適化された28Cタイヤ」が出てくる可能性はあります。GOODYEARは、ZIPPホイール専用のタイヤを出していますが、あれは現行のETRTOとは明らかに異なる設計のはずで、それに続くメーカーが出てもおかしくはありません。

リムベッドはニップルホールなし。いわゆるホールレスリムです。

本製品の名前に含まれる「SAT」は、このホールレスリムを実現するテクノロジーを指しているそうです。SAT=「Special Assembly Technology」の略なんだとか。

この技術の歴史は古く、少なくとも2013年には実装されていた模様。Yoeleoは一貫してホールレスリムにこだわってきたようですね。チューブレス運用を想定した場合、チューブレステープが不要であることによってトラブルの原因切り分けがかなり楽になります。

重量

Yoeleoはホイールセットでの重量しか公開しておらず、前輪と後輪それぞれの公称重量は不明です。

C35が1260g±5%、C50が1320g±5%。今回の私のオーダーは「前35/後50」なので、公称重量は1290gになると推測されます。

実測重量は、前輪575g + 後輪714g = 1289gでした。ほぼ公称通り。フィラメントワインディング製法によってリム重量が揃いやすいことが効いているんでしょうか。

本製品、前35mm/後50mmというハイトを考えると、1289gという重量はかなり軽いです。相場を考えると1350-1400gくらいになるはず。

「リムが軽いのか?」と思ったんですが、前輪の公称重量は375g、後輪の公称重量は410gと割と普通の重量(内幅23mmと考えると軽めではある)。そしてスポークの重量も相場通り。となると残りはハブですが……なんと公称重量が前後ハブで270gとされています。これは相当に軽い。DT Swissの最高級ハブである180ハブですら、前後の合計重量は290gですので。それより更に20gも軽い。

一般的なハブとしてはTNI「Bite」ハブなどが上げられますが、こちらは前後362g。これくらいが普通です。270gということは、ハブだけで90gの軽量化をしていることになります。

組み合わせるパーツ

先月のDRIVE 40Dと同じく、Hutchinson「BLACKBIRD 28C クリンチャー」と、Panaracer「パープルライト(TPUチューブ)」を組み合わせて使用します。チューブありのクリンチャー運用です。

取り付け後のタイヤ幅は31.9mm。ほぼ32Cタイヤです。28Cタイヤは19mm内幅前提で設計されているので、23mm内幅のホイールに付けると2mmほど幅が大きくなるはずですが、BLACKBIRDはさらに2mmほど太くなっています。

レンタル期間の前半はクリンチャー、後半はチューブレスレディでテストを行う予定です。

ディスクローターは、RT-CL800を取り付け。内セレーション・外セレーションどちらのロックリングにも対応しています。

走行前の点検

私は昔、完組ホイールを通販で買った際の苦い経験があるため、必ずショップでテンションが揃っているかをチェックしてもらうことにしています。

先月のDRIVE 40Dは点検の結果「触る所無し」というほど完璧に組まれていました。今回もそうだったら良いな……と思っていましたが、結構ショップからの指摘が出ました。

  • テンションは全体的に揃っている
  • 後輪のテンションが結構低い
  • 前後輪ともにセンターが少しズレていた

Yoeleoのサイトに掲載されている推奨テンション値と、測定してもらったテンション値を比較してみます。

推奨テンション値実測テンション値
前輪DS未記載60kgf
前輪NDS95-110kgf110kgf
後輪DS130-140kgf100kgf
後輪NDS-120kgf60kgf

前輪の公称値はDS/NDSの区別なく「95-110kgf」としか書かれていませんが、1:1で片方ラジアルにした場合は左右のテンションは不均一になります。95-110kgfというのは、恐らくNDS側の数値であろうと判断しました。

さて、前輪はまずまず推奨の範囲に収まっていますが、後輪のテンションがかなり低いことがわかります。ショップまで乗車してホイールを運んだわけですが、「妙にお尻側の乗り心地が良いな」と感じました。後輪が沈み込んでいたのでしょう。これだけテンションが低ければ納得です。

前輪は推奨範囲なのに、後輪は推奨範囲外というのもよろしくないので、後輪のテンションのみを上げてもらうことにしました。調整後、後輪DSは130kgf、後輪NDSは70kgfになりました。後輪が沈み込む感触もなくなりました。

他のSAT NxT SL2ユーザーでテンションを計測している人の値を見ても、推奨値通りに前後揃っている個体は少なそうです。たまたま腕のあまり良くない組み手に当ってしまったのか、それとも検品体制が弱いのか。上記note以外に2名ほどテンションを計測している方がいましたが、2名とも推奨値から外れた値になっていました。

センターのずれなどもあるようなので、出来ればショップでお金を払って調整してもらったほうが良いでしょう。ショップにもよりますが、2000-4000円ほどで調整してもらえると思います。

とはいえ、テンションが不均一だったり、推奨値に届いていないのはYoeleoだけに見られる現象ではありません。むしろ揃っている方が稀で、ショップ側で調整してから納品することのほうが多いそうです。こういった所に実店舗でホイールを買う理由があります。
なお、カンパのホイールは諸々ビシッと揃った状態でショップに届いて調整することがほとんど無いと聞きました。

価格

直販サイトでの価格は159000円です。時折行われるセールでは、ここから更に10-20%ほど割引になることもあります。昨今、高騰が続くカーボンホイールにおいてはかなりお得感のある値段設定です。

また、Yoeleoは中国系ブランドとしては珍しく、実店舗を介して購入することが可能です。日本国内で200店舗前後が代理店契約をしている様子。アフターサポートを考えると、実店舗で購入したほうが安心だと思います。ちゃんとしたショップならば納品前にテンション調整もしてくれるはず。

実走の感想

2/22に行われた200kmブルベを含めて270kmほど走行しました。

空気圧は、前6.0気圧/後6.5気圧に設定。

重さ

実測1287gのDRIVE 40D同様、車体を持ち上げた時の重量がかなり軽く感じます。実測1595gのシャマルカーボンとは約300g差。

軽量化の主体はハブですが、持って分かる程度の違いがあります。

漕ぎ出し・加速

リム重量はカーボンリムの相場通りの重量で特別軽いわけではありませんが、漕ぎ出しは軽く感じます。前輪のラジアルスポークがこの感触に一役買っている気がします。左右1:1の組み方には疑問ですが。

DRIVE 40Dでは感じられた「失速の早さ」もSATでは感じられません。リム重量がある程度あるので慣性が効いているのでしょうか。

乗り心地

良いと思います。シャマルカーボンほどではないですが、ステンレススポークの平均値よりも乗り心地は良好である印象。チューブレスタイヤにすればさらに良好な乗り心地になるはずですが、それはまだテストしていないので断言できません。

リム内幅が23mmあり、タイヤ内のエアボリュームが大きいことも乗り心地に一役買っている可能性はあります。内幅23mmで前6.0気圧/後6.5気圧は少々入れすぎのはずなので、もう少し空気圧を落として乗り心地を試してみる予定です。

登坂

このホイールのテストで走行したBRM222は三浦半島を一周するコース。大きな山岳はありませんが、細かい坂はたくさんあり、獲得標高も200kmで1600mほどあります。

リム重量はさほど軽くないはずですが、登りは軽快でした。なんというかリズムが取りやすかったです。ホイールとしての剛性が適度なレベルに抑えられているからではないかと考えています。

横風耐性

今回走ったブルベは海沿いを走るコースということで風が強い場所が多かったのですが。何度か「風にタイヤを押された」と感じるシーンはあったものの、挙動を崩すようなことはなかったです。

SAT NxT SL2のリム断面図は公開されていませんが、ここの記事を見るとU字断面である可能性が高そうです。この手の形状は横風に対する安定性が高いことが多く、このホイールも例外ではありませんでした。

横風耐性を気にして前輪をC35にしましたが、この感じだと前後C50でも問題はなかった気がしますね。

空転音

フリーボディの空転音は静かな部類だと思います。個人的にはもう少し音が大きいほうが好み。

まとめ

Yoeleo「SAT DB PRO NxT SL2」のファーストインプレッションでした。

今のところのホイール全体としての印象を一言で言ってしまうと「普通」という身も蓋もない単語になってしまいます。これといった不満はない一方、「目の覚めるような加速」とか「夢のような巡航性能」といった分かりやすい長所もありません。性能グラフが綺麗な五角形に近く、全項目5点中の4点というイメージ。

ただ、ブルベにはこういうホイールは相性が良いです。乗っていてストレスが少ないので。

ただ、このホイールを直販で購入した場合、テンションが推奨値から外れている可能性が高いです。このホイールの本来の性能を発揮するためには、使用前の調整は必須になると思います。ホイールに強いプロショップに調整を依頼しましょう。もしくは、Yoeleoの代理店となっている実店舗で購入するのが確実です。


SRAMの空気圧提案サイトで情報を打ち込んでみると、前6.0/後6.5気圧はちょっと高すぎたようです。内幅21mmのDRIVE 40Dと合わせるために同じ空気圧にしたのですが……内幅が増えた場合、同じ空気圧にすると乗り味が固くなる傾向にあるので、もう少し空気圧を落とすべきでした。次はもう少し空気圧を落として乗ってみる予定です。もっと乗り心地が良くなるかも。

また、3月に入ったらチューブレスレディタイヤでのテストも予定しています。

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著者情報

年齢: 40歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: GHISALLO GE-110(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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