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ブルベ参加者向け EN17353規格ガイド
今後増えていくであろうEN17353規格準拠の反射ベストについて、ブルベ参加者が知っておくべきことをまとめた記事になります。
まえがき
様々な製品には「こうあるべき」というガイドラインを示した「規格」というものが存在します。
反射ベストにも規格がある
日本の工業製品なら「JIS」。世界共通の規格なら「ISO」と言った具合です。
ブルベのシンボルにもなっているアイテム「反射ベスト」にも規格が存在します。理由は分かりませんが、反射ベストの本場はヨーロッパであり、反射ベストの規格化は「欧州統一規格(EN)」が世界をリードする立場にあります。
4年に一度開かれる最高峰のブルベ「PBP」では、この規格に適合した反射ベストしか使用を認められていません。
EN17353の登場
2020年、欧州統一規格における反射ベストの規格が更新されました。従来存在していた「EN1150」が廃止され、新たに有効となったのが本記事で取り上げる「EN17353」です。
2020年に有効化された「EN17353」ですが、しばらくこの規格に適合する製品は現れませんでした。しかし、2023年頃から規格に適合した製品が現れ始め、2025年現在ではそれなりの数の製品が販売されています。
本記事の目的
旧規格であるEN1150は厳格な規格であり、これに適合した製品は基本的に世界中どこのブルベでも参加を認められるだけのスペックを持っています。
しかし、その後継であるEN17353規格は基準が少し緩くなっており、一部のブルベでは使用を認められない可能性があります。
本記事では、主にブルベ参加者に向けて、EN17353規格について知っていただくことを目的としています。まだ日本語の説明文書がほとんど存在しないので、「少しでもソースになる情報を」と思って作成しました。
「ブルベのスタート地点まで行ったのに反射ベストが理由で参加を認められない」という悲しい事態を防ぐため、ぜひご一読下さい。
EN17353規格について
EN17353規格について、重要な点を抜粋してお伝えします。原典となる規格のPDFはこちらから取得可能です。
規格概要
EN17353は、ヨーロッパにおける高視認性衣服&アクセサリーの規格です。2020年に規定されました。
非職業者向けのEN17353
この規格は、それまで存在していた2つの規格(EN1150とEN13356)を統合したものになっています。2つの規格の概要は以下です。
規格名 | 概要 |
---|---|
EN1150 | 非職業者向けの、高視認性衣服の規格。 |
EN13356 | 非職業者向けの、高視認性アクセサリーの規格。 (リストバンド/衣服に付けるリフレクター/反射リュックカバーなど) |
要は、「衣服とアクセサリーの規格が別々だったので統合した」ということですね。これら二つの規格は「非職業者向け」であり、歩行者や自転車等の生活者に加え、レジャーを楽しむ人のための規格になっています。
EN17353登場当時は「EN1150の上位規格」と訳されていることもありましたが、これは誤っています。あくまでも「EN1150の後継規格」であり、格としては同等です。ただし、後述しますが、求められる要件はEN1150よりも緩くなっています。
上位・下位という話であれば、この後に示すEN20471がEN1150・EN17353の上位規格に相当します。
職業者向けのEN20471
「職業者向け」の規格も存在します。それがEN20471です。
規格名 | 概要 |
---|---|
ISO EN20471 | 職業者向けの、高視認性衣服の規格。 |
路上で作業するゴミ収集作業員・建設作業員・港湾作業員などが対象で、非職業者向けの規格よりもより厳しい内容が規定されています。ENはあくまでもヨーロッパのローカル規格ですが、EN20471は国際規格であるISOにも採用されています。
各規格の変遷と関係

高視認性衣服&アクセサリの規格変遷を図にまとめると、このようになります。現在有効な規格は、職業者向け「EN20471」と、非職業者向け「EN17353」です。他の規格は廃止されています。
EN20471はISO規格でもあるため、ほぼそのままの形で日本の工業規格であるJISにも採用されています。「JIS T 8127」がISO EN20471に対応しており、この規格に準拠した反射ベストが日本国内でも作られています。基本的には工事現場などで使われる用途の製品ばかりで、スポーツ向けの製品は見たことがありません。
EN17353内のタイプ分類
EN17353規格は、その中で更に細かくタイプが分類されています。
タイプ | 要件 | サブタイプ |
---|---|---|
Type A (昼用) | ・蛍光生地を使用していること。 | – |
Type B (夜用) | ・再帰性反射材を使用していること。 | B1(アクセサリー) |
B2(手足用) | ||
B3(胴体用) | ||
Type AB (昼・夕暮れ・夜用) | ・蛍光生地を使用していること。 ・再帰性反射材または複合パフォーマンス素材を使用していること。 | AB2(手足用) |
AB3(胴体用) |
本記事で取り上げる反射ベストは、「Type B3」または「Type AB3」に分類されます。
Type A
「昼専用の高視認性衣服・アクセサリ」はType Aに分類されます。
昼用なので、反射材についての規定はありません。昼間でも目を引く色の蛍光生地を採用した上で一定の条件を満たせば、「EN17353 Type A適合」を名乗ることが出来ます。
Type Aは反射材の使用を必要としないため、このタイプに分類される反射ベストは通常ありません。「反射ベストっぽい色使いだけど、反射材が使われていない/反射材の面積が規定より少ない」ベストはここに分類されるはずです。
上記のベストはEN17353認証は取得していませんが、例としてはこういったものがType Aに分類されるはずです。こちらのベストは生地が蛍光色ではあるものの、反射材がブランドロゴにしか使われておらず、Type BやType ABで規定される反射材の面積を満たしていません。
Type B
「夜専用の高視認性衣服・アクセサリ」はType Bに分類されます。
夜専用なので、蛍光素材についての規定はありません。夜間に光を反射する再帰性反射材を採用した上で一定の条件を満たせば、「EN17353 Type B適合」を名乗ることが出来ます。
Type Bは、取り付ける部位によって3つのサブタイプに分かれます。
B1はアクセサリー。B2は手足用の衣服(アームカバーやリストバンド)。B3は胴体用の衣服です。本記事で取り上げる反射ベストは、B3に所属します。ただ、B3は蛍光素材についての規定がないため、例えば「黒い生地の反射ベスト」でも規格を満たすことが出来ます。
例えばこちらのようなベストがType B3となります。このベストは通常の反射ベストとは逆パターンで、胸に入っているラインは反射せず、それ以外の部分が全面的に反射材になっています。胸に入っているラインは蛍光生地も一部使われていますが面積が足りないためAB3には準拠しません。
TypeAB
「昼夜兼用の高視認性衣服」はType ABに分類されます。
昼夜兼用なので、蛍光素材と再帰性反射材の両方を採用することが求められます。その上で一定の条件を満たせば、「EN17353 Type AB適合」を名乗ることが出来ます。
Type ABは、取り付ける部位によって2つのサブタイプに分かれます。
AB2は手足用の衣服、AB3は胴体用の衣服です。本記事で取り上げる反射ベストは、AB3に所属します。Type ABにはアクセサリ用の規定は存在しません。
「複合パフォーマンス素材(Combined Performance Material)」が具体的に何を指すのかは、調べても分かりませんでした。

例えばこちらのようなベストがType AB3となります。生地は蛍光色で、反射材が付いています。
規格の要件
EN17353規格に適合するためには、一定の要件を満たす必要があります。反射材の面積や、蛍光生地の面積、蛍光生地の色などが要件となっています。

反射材・蛍光生地の最低面積
EN17353では、ウェアのサイズ(想定する身長)で要件が2種類に分かれています。境界線は140cmなので、ざっくり「子供向け」「大人向け」で分かれていると考えてよいでしょう。
蛍光生地の面積 | 再帰反射材の面積 | |
---|---|---|
EN17353 B3 | – | 0.06m² |
EN17353 AB3 | 0.14m² | 0.06m² |
蛍光生地の面積 | 再帰反射材の面積 | |
---|---|---|
EN17353 B3 | – | 0.08m² |
EN17353 AB3 | 0.24m² | 0.08m² |
大人向けの要件を見ると、再帰反射材の面積は0.08m²以上が要求されます。0.08m²=800cm²です。

反射材のテープは普通5cm幅の物が多いですが、5cm幅で長さ160cm以上が必要ということになります。結構長いですね。ゆるめの胴回りで80cmで設計されていたとしても、胴を2周しないと160cmにはなりません。
ここで、旧規格であるEN1150との要件の違いを確認してみます。EN1150も身長による要件の違いがありましたが、「158cm未満」「158cm以上176cm未満」「176cm以上」と、境界線の場所が随分と違います。
EN1150と、EN17353(大人向け)の要件を比較したのが以下の表です。
蛍光生地の面積 | 再帰反射材の面積 | |
---|---|---|
EN1150 (-158cm) | 0.13m² | 0.09m² |
EN1150 (158-176cm) | 0.14m² | 0.09m² |
EN1150 (176-cm) | 0.15m² | 0.10m² |
EN17353 B3 | – | 0.08m² |
EN17353 AB3 | 0.24m² | 0.08m² |
EN17353は、旧規格EN1150と比べて再帰反射材の要求面積は緩くなっていることが分かります(B3・AB3両方とも)。一方、昼間の被視認性に関わる蛍光生地の要求面積は増えています(AB3のみ)。

概算ですが、腰までの長さのある反射ベストの表面積は約0.6㎡。0.08㎡は反射材が占めるとすると、「蛍光生地: 0.24㎡」は、反射材を除いた生地の約半分です。
腰までの長さがある反射ベストならば、反射材を除いた生地の半分は蛍光色以外の色を入れても良いことになります。
蛍光生地の色
蛍光生地の色についても規定があり、以下の7色しか認められていません。
- 蛍光イエローグリーン
- 蛍光イエロー
- 蛍光イエローオレンジ
- 蛍光オレンジ
- 蛍光オレンジレッド
- 蛍光レッド
- 蛍光ピンク
EN1150ではこれらの色に加えて「蛍光グリーン」も認められていましたが、EN17353では認められなくなりました。

PBPベストを製造するL2SのVisioplusには上記のカラーバリエーションがありますが、左下の蛍光グリーンだけは今後認められなくなるということです。

なお、蛍光色の生地は、昼間のみならず夜間でも「目を引く」効果があり、被視認性を高めることに繋がります。詳しくは上の記事をお読みください。
反射材の配置
Type B3・Type AB3の場合、「反射材が前後左右から見えるように」という要件があります。
- 規定された反射材の最小必要量の40%以上が、正面と背面に配置されていること。
- 規定された反射材の最小必要量の10%以上が、右側面と左側面に配置されていること。
Type B3とType AB3の大人向けの場合、反射材の最小必要量は0.08㎡と規定されています。つまり、以下の量の反射材を各部に配置する必要があります。
正面 | 0.032㎡以上 |
---|---|
背面 | 0.032㎡以上 |
右側面 | 0.008㎡以上 |
左側面 | 0.008㎡以上 |
「背面だけ反射材を増やして、正面は減らす」とか、「正面と背面に反射材はあるけど、側面にはない」というような配置は認められないということになります。
ブルベ参加者向け情報
ブルベ参加者向けの、EN17353に関する注意事項です。国内ブルベの場合と、PBPの場合に分けて解説します。
各ブルベ団体のローカルルール
日本には26のブルベ主催団体があります。
日本国内で開催されるブルベのルールは「BRM/AJ規定」に定められている通りですが、各ブルベ団体が独自に設定している「ローカルルール」というものが存在します。ローカルルールは「BRM/AJ規定」に対して各団体が規制を追加するものです。ローカルルールを満たさない場合、出走することが出来ません。
ローカルルールの中で反射ベストについて規制している主催団体はそれなりに多く(26団体中、17団体)、参加するにあたっては注意が必要です。
日本国内団体ローカルルール 一覧表
2025年1月30日現在で、反射ベストに関するローカルルールが存在する団体の情報を以下に示します。
団体名 | 反射ベストに関するルール要約 |
---|---|
AJ北海道 | ・昼夜を問わず着用すること。 ・反射ベストなど前後から視認できるものを装着すること。 ・反射タスキのみは不可。 |
R宮城 | ・反射ベストは走行中常時着用すること。 ・前傾姿勢を取った際、前後左右から反射素材の視認性の高いもの。 ・推奨するもの EN1150またはEN ISO20471(旧EN471)を満たすもの。 ・推奨しないが、着用を認めるもの 反射材が比較的広く、ベースが黄色・オレンジ等の目立つ明るい色のもの。 ・認めないもの 反射タスキのみ。 |
R札幌 | ・反射ベストは昼間も常時着用を義務化。 ・反射タスキのみは不可。 ・蛍光色の伴わない再帰反射材のみの反射ベスト、ジャケットは不可。 ただし、反射材が日中でも光り、視認性の高いものであれば可。 |
Rいわき | ・走行中は昼夜を問わず身に着けなければならない。 ・推奨するもの - 反射ベスト、安全ベスト、反射ベルトは単品で高視認性を目的としたアイテム - 反射材および反射部分の形状は帯状を成しているもの(前後上下位置、縦横方向は問わない) - 反射材以外のベストやベルトを構成する主たる生地の色は蛍光色を推奨する。 ・認めないもの - 反射タスキのみ - 反射材が点になっているもの・ドット状のもの - 全面またはそのほとんどが反射素材で覆われているもの - ウエア(ジャージ・ジャケット・ウインドブレーカー・雨具)に施された反射材のみ - 反射材が剥がれているもの、経年劣化等により薄くなったり失われている物 ・使用不可ではないが推奨しないもの - 反射材が上部しかない反射ベスト - ラファ製 ブルベジレ |
AJ神奈川 | ・BRM走行中は昼夜を通じて反射ベストを着用すること。 ・認めないもの - 反射タスキなど、裏返って見えなくなるもの。 |
AJ宇都宮 | ・反射ベストあるいは反射タスキなど、その種類は問わない。 ただし、以下の条件を満たすこと。 - 十分な反射面積を持つこと - 前後から明らかに視認できること - 装着時に荷物などに隠されることがないこと |
AJ千葉 | (特になし) |
A埼玉 | ・夜間は後方及び前方から確認できるベストなどを装着すること。 (*昼夜の装着を強く推奨する) ・前傾姿勢で後方から見える腰(臀部)への装着が理想的。 |
VCR横浜あおば | ・BRM参加者は反射ベストを常時着用すること。 |
AJ群馬 | ・認めるもの - 反射ベスト - 反射たすき - 反射肩掛けベルト - 前後の見えやすい位置に反射素材がついた同様のもの (日中でも反射素材を視認できるもの) ・日中も含めて走行中は常時一番外側に着用すること。 ・見やすい蛍光色の生地を強く推奨する。 |
AJ西東京 | (特になし) |
R東京 | ・(反射素材面積の大きい)反射ベストを装着のこと。 ・タスキやベルト状のみの反射材装着は不可。 |
AJたまがわ | ・反射タスキは反射材の面積が狭く裏返ると反射しないため不可。 |
AR日本橋 | ・反射ベストは常時着用すること。 ・認めないもの - 反射たすき - 反射肩掛けベルト - 非反射部の生地面積の半分以上が蛍光色ではない反射ベスト (蛍光色: イエロー、オレンジ、グリーン、レッド、ピンク、 イエローグリーン、オレンジレッド、イエローオレンジ) |
Rさくら | ・BRM走行中は昼夜を通じて反射ベストを着用する。 ・反射タスキなど裏返って見えなくなるものは認めない。 |
AR中部 | ・前方/後方から視認できる反射グッズを身に着ける(反射ベスト・反射たすきを推奨)。 ・ジャージへの反射材の縫付けは、面積が小さいと判断した場合は不適合。 |
AJ静岡 | (特になし) |
RC名古屋 | (特になし) |
A近畿 | (特になし) |
AJ岡山 | (特になし) |
AJ広島 | (特になし) |
AR四国 | ・走行中は視認性確保のため下記の”蛍光色”の生地を有する「反射ベスト」を着用すること - イエロー、オレンジ、ピンク、グリーン |
AJ福岡 | (特になし) |
R熊本 | ・走行中は昼夜を問わず身に着けなければならない。 ・推奨するもの - 反射ベスト、安全ベスト、反射ベルトは単品で高視認性を目的としたアイテム - 反射材および反射部分の形状は帯状を成しているもの(前後上下位置、縦横方向は問わない) - 反射材以外のベストやベルトを構成する主たる生地の色は蛍光色を推奨する。 ・認めないもの - 反射タスキのみ - 反射材が点になっているもの・ドット状のもの - 全面またはそのほとんどが反射素材で覆われているもの - ウエア(ジャージ・ジャケット・ウインドブレーカー・雨具)に施された反射材のみ - 反射材が剥がれているもの、経年劣化等により薄くなったり失われている物 ・使用不可ではないが推奨しないもの - 反射材が上部しかない反射ベスト - ラファ製 ブルベジレ |
AJ長崎 | (特になし) |
AR鹿児島 | ・走行中は昼夜を問わず身に着けなければならない。 ・推奨するもの - 反射ベスト、安全ベスト、反射ベルトは単品で高視認性を目的としたアイテム - 反射材および反射部分の形状は帯状を成しているもの(前後上下位置、縦横方向は問わない) - 反射材以外のベストやベルトを構成する主たる生地の色は蛍光色を推奨する。 ・認めないもの - 反射タスキのみ - 反射材が点になっているもの・ドット状のもの - 全面またはそのほとんどが反射素材で覆われているもの - ウエア(ジャージ・ジャケット・ウインドブレーカー・雨具)に施された反射材のみ - 反射材が剥がれているもの、経年劣化等により薄くなったり失われている物 ・使用不可ではないが推奨しないもの - 反射材が上部しかない反射ベスト - ラファ製 ブルベジレ |
ローカルルールの傾向
ローカルルールは各団体ごとに微妙に違いますが、R熊本・Rいわき・AR鹿児島は同一と思われる文章を採用しています。私の記憶が確かならば一番この規定を出すのが早かったのはR熊本なので、恐らくオリジナルはR熊本なのでしょう。
後述するようにPBPでは規格認証を受けたベストしか着用が認められていません。一方、日本では「規格(EN20471やEN1150)に準拠した反射ベストしか認めない」というブルベ団体は今のところありません。というか、日本で売られている反射ベストは特に規格の認証を受けていないものが大多数です。
認証を取得するにもお金が掛かりますし、ヨーロッパ市場で反射ベストを売らない日本企業にとっては取得する意味があまりないからです。
現状の日本の団体のローカルルールはそれほど厳しいわけではありません。厳格な規格である「EN20471」「EN1150」「EN17353 AB3」のいずれかに準拠したベストであれば、恐らくどこの団体でもNGが出ることはないはずです。
規格に準拠していない反射ベストを使う場合には、参加する団体のローカルルールをよく読み、条件に合った反射ベストを使いましょう。
EN17353準拠のベストに関する注意点
ここからがこの記事で一番言いたいことです。EN17353の認証を受けている反射ベストであっても、Type B3のものに限ってはローカルルールに引っかかる可能性があります。
改めて、EN17353のタイプ別の特徴を以下に整理します。
項目 | Type A | Type B | Type AB |
---|---|---|---|
用途 | 昼間の視認性向上 | 夜間の視認性向上 | 昼夜両方の視認性向上 |
蛍光素材 | ☑️必須 | ❌️不要 | ☑️必須 |
再帰性反射材 | ❌️不要 | ☑️必須 | ☑️必須 |
EN17353の「Type B3」は反射材の面積は規定しているものの、蛍光素材の使用については必須ではありません。
これにより、ローカルルールで生地に蛍光色を指定している団体の場合、EN17353準拠の反射ベストであっても出走を認められない場合があります。反射ベストでよく使われる蛍光色(イエロー/オレンジ/グリーン/ピンク)ではない色の生地を採用した反射ベストを使用している方は注意が必要です。
なお、旧規格であるEN1150や、上位規格であるEN20471では生地の色に蛍光色の使用が義務付けられています。これらの認証を得ている反射ベストは自動的に蛍光色を備えていることになります。EN17353の「Type AB3」も蛍光素材の採用を義務付けています。こうしたベストであれば、ほぼ全ての団体のローカルルールを満たせるはずです。
PBPのローカルルール

フランスで行われるPBPでも反射ベストについては特別な規定があります。PBPのルールは開催ごとに微妙に変わるので注意が必要です。
2023年大会の場合
2023年大会のルールは以下でした。
フランス交通法により、夜間走行する場合は視認性の高いベストを着用しなければなりません (安全規格番号 EN 1150 または EN ISO 20471)。
スタート前に参加者全員に渡されるベストはフランスの規定に準拠しており、PBP走行期間中に着用することを強くお勧めします。
反射ベストが隠れている場合(バックパックを背負っている、またはリカンベントに乗っているなどの理由で)、確実に見えるように追加の反射素材があることを確認してください。
これを要約すると、以下のようになります。
① 夜間走行時には反射ベストを着用すること。
(昼間の着用は義務ではないが強く推奨)
② 反射ベストは、EN1150/EN20471規格に準拠していなければならない。
③ 反射ベストが隠れる状況では、追加の反射素材を付けなければならない。
PBPのルールでは、夜間走行時のみ反射ベストを着れば良いルールになっています。このため、昼間に反射ベストを着ている人は半分以下です(夏の開催で熱いため)。
重要なのは②。PBPでは規格に準拠した反射ベストしか認めていません。認められているのはEN1150とEN20471。2020年に制定されたEN17353はこの時点で存在していたはずですが、ACPが認識していなかったのか大会の規約には全く触れられていませんでした。
「EN17353はEN1150の後継規格なのだから、EN17353は自動的に認められるのでは?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、前述の通り、EN17353はEN1150よりも全体的に要件が緩くなっています(EN17353を満たしていても、EN1150を満たさない製品が存在する)。

こちらの反射ベストは「EN17353 Type B」認証です。
2023年のPBP直前に発売され、APIDURA公式サイトにも「PBPに使えます」的な書き方をされていましたが、厳密にはEN1150の規格を満たしていません。反射材の面積はギリギリ足りているはずですが、蛍光生地の面積が0.24㎡に満たないためです。ただ、2023年大会ではこれを着用しての出場でも特にお咎めはなかったようでした。

ルールにもある通り、参加者に無料で配られる大会公式の反射ベスト(EN1150準拠)を着るのが一番無難であると言えます。
2027年大会の予想
2023年大会の時点ではEN17353準拠の製品はほとんど存在していませんでしたが、2025年現在は準拠製品がそれなりに発売され始めています。次回、2027年のPBPでは恐らくルールにEN17353への言及が入ってくるはずです。
ただ、これまで何度も触れたようにEN17353でもType B3の規定では生地に蛍光色以外の色を使うことが出来ます。従来のPBPでは蛍光色ではない生地の反射ベストに対して注意が入った事例が多かったことから、蛍光色の使用は引き続き義務化されるのではないかと予想します。そうなると、EN17353のType AB3への準拠が必要です。
以上のことから、次回の規定では「EN20471、またはEN17353 Type AB3に準拠した反射ベスト」という形になるのではないかと予想しておきます。

2023年大会のPBP公式ベストはEN1150準拠ですが、反射材と蛍光生地の面積的にはEN17353 type AB3の条件を満たしているはずなので、次回はそちらの規格番号が製品タグに印刷されるのではないかと思います。
まとめ
EN17353規格について解説しました。
正直「EN1150で良かったんじゃない?」とは思ってます。高視認性衣服なのに「夜専用」とすることで蛍光素材を省くことを認めた規格は片手落ち感が否めません。
しかし、決まってしまったものはしょうがない。ブルベ用に反射ベストを購入する際には、「Type」まで確認の上、出ようとしているブルベのルールに準拠しているかを確かめてから購入しましょう。
最後に、この記事のまとめとして、「反射ベスト規格別 ブルベ出走可否状況」を示しておきます。
以下の表は著者による理解を示したもので、間違っている可能性がありますのでご了承ください。
国内ブルベ | PBP | |
---|---|---|
EN20471準拠 | ◯ | ◯ |
EN1150準拠 | ◯ | ◯ |
EN17353 Type A準拠 | × | × |
EN17353 Type B3準拠 | △ 生地の色によっては 使用できない団体もある | △ 生地の色によっては 使用不可 |
EN17353 Type AB3準拠 | ◯ | ◯ |
規格認証を受けていない 反射ベスト | △ 各団体の判断による | × ACPの判断によるが、 基本は不可 |
↓のベストは規格の認証を受けていませんが、反射材・蛍光生地の面積は十分にありそうです。
著者情報
年齢: 40歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: GHISALLO GE-110(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。