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Canyon「Endurace CF」「Endurace CF SLX」比較試乗記
試乗後は、キャニオンジャパン代表・石山さんにお話を伺いました。
キャニオンジャパン・石山さんインタビュー
試乗前から私が気になっていたのは、Enduraceにおける「CFR」「CF SLX」「CF」という3グレードの位置付けです。
ロードバイクでは、同じシリーズであれば「形は同じ」「上位ほど高弾性なカーボン素材を使う」という形でグレードを分けることが一般的。しかし、Enduraceは3グレード全てが全く別の形をしています。これは、単純なグレード違いではなく、それぞれ想定用途が異なるのでは?

そんな疑問を中心として、Canyonの開発思想やヨーロッパのサイクリング事情について、石山さんに詳しく伺いました。
Enduraceのグレードは「松竹梅」ではない?
baru:まずは、Enduraceシリーズ内におけるグレードについて伺います。「CFR」「CF SLX」「CF」は、価格だけではなく、それぞれ違うターゲットユーザー像や想定用途が設定されているように思えました。Canyonとしては、その辺りをどのように考えているのでしょうか?
石山:そこは作り分けていると思います。日本にいると実感しにくいと思うんですが、ヨーロッパやアメリカではEnduraceのマーケットは非常に大きいんです。マーケットが大きいと、ユーザーのニーズも細かく見えてきます。そうなると、「それぞれのユーザーに適した自転車を丁寧に作っていこう」というスタンスになるんだと思います。
baru:なるほど、平たく言うと「売上が見込めるから作り分ける余裕が生じる」ということですね。グレード別に見ていくと、「CFR」は完全なプロ向けのレースモデル。マチュー・ファン・デル・プールがクラシックレース勝つために作られた「石畳レーサー」という印象です。今世代からEnduraceはフェンダーマウントが付きましたけど、CFRには付いていないですよね?
石山:そうですね、フェンダーマウントは付いていません。クラシックレースというより、完全に「パリ~ルーベ」をターゲットに作ったと思います。

baru:「CF SLX」は、今日試乗した限りだと「レーシングロード的な反応を楽しみながら、軽装で様々な路面を走れるモデル」という印象を受けました。週末に1日、走りがいのあるコースを仲間同士で走るような、そんなユーザー像が思い浮かびます。
石山:まさに。なので、あえてCF SLXにはバッグ用のダボ穴は付けていないようです。
baru:一応、最低限のパンク修理用具などを持ち歩くためのダウンチューブストレージは付いているけれど、大量の荷物を積む想定はなさそうですよね。ただ、フェンダーマウントはCF SLXにも付いている。
石山:ドイツは冬が長いですからね。日本の太平洋側のような晴天の乾いた冬と異なり、10月から3月ころまで太陽が顔を出さない曇天や時雨のように小雨や霧雨が降ったり止んだり、霧が多く、路面が乾きにくい季節になります。でも跳ね上げた水や泥でウェアが濡れることは避けたい。そこでフェンダーを付けて走る、と。
baru:なるほど! そういえばスポーツバイク用のフェンダーで有名なSKSもドイツブランドですもんね。

baru:そして次の「CF」は、CF SLXと比べるともう少し「旅」な感じが出てくるというか。バッグ用のダボ穴も多く、専用フレームバッグもあって、ある程度の荷物を積むことが出来るようになっています。ハンドルやシートポストも汎用規格なので、好みに合わせてのカスタマイズもしやすい。私の主な用途はブルベですが、CFが一番私には合っていると感じました。
石山:はい、それもそのとおりだと思います。

baru:ロードバイクの場合、同じシリーズの中で「性能の上下」として「松竹梅」的なグレードを付けるのが普通だと思うんですが、Enduraceは多分違いますよね。「性能の上下」ではなく「種類の違い」として、グレードを分けているんじゃないかなと。グレードというよりは「タイプ」。
石山:はい。本当に、今おっしゃって頂いたようなことをメーカーも想定していると思います。
baru:しかも、3モデルの金型が全て違うわけですよね。
石山:そうですね、はい。
baru:AeroadやUltimateは、金型が同じでカーボンのグレードを変えているイメージがあります。一方、Enduraceは形状そのものをグレード別に作り分けている。金型は高価なものですし、相当な開発コストが掛かっているのでは?
石山:はい。でも冒頭申し上げたように、エンデュランスロードは世界的には販売ボリュームが見込めるカテゴリということもあって、コストを掛けています。しかし、売上が見込めるということは他社との競争も激しいということ。どのメーカーもそのジャンルの中で選んでもらうために、良い製品を作らなければならないというプレッシャーがあります。
baru:お話を聞く前は「エンデュランスロードにそんなにコストを掛けて大丈夫?」と思っていたのですが、私の認識が浅かったですね。それだけのコストを掛ける価値があるマーケットであり、掛けなければ生き残れないわけですね。
石山:Canyonは、かなりこだわりが強いメーカーなんです。例えば、以前は小さいフレームサイズには650Bのホイールを使っていました。エンジニアが、小柄なライダーに700Cホイールでは適切なジオメトリを実現できないと考えたからです。ただ、それがお客さんに受け入れられるかは別問題。ビジネス的には成功せず、現行世代では全サイズが700Cになりました。初代Grailの二階建てハンドルもそうですが、ああいう独特なアイデアが企画として通る会社なんですよね。

なぜEnduraceはリーチが長いのか
baru:今回、Enduraceのジオメトリを見ていて気になったのが「フレームリーチ」です。Enduraceは他社のエンデュランスロードほどリーチが短くありません。スタックも高すぎない。この前、TREKの新型Domaneに試乗しましたが、フレームのスタックがかなり高い上に20mmライズしたハンドルが付いていて、相当「後ろ重心にさせられる」感が気になりました。あまりにも上体が起きてしまうと、サドル側に荷重が集中してお尻が痛くなるはずなんですよね。だから、ロングライドでは適度な前傾姿勢も必要だと思うんです。Enduraceはレーシングロードに近いリーチを維持しながら、ホイールベースを長く取って安定性を確保しているように見えました。
石山:スタックを高くしすぎないというのは、開発者の考え方も関係しているかもしれません。Canyonのエンジニアやプロダクトマネージャーは、みんな自転車に乗るのがとにかく好きでゴリゴリに走る人たちなんです。自分たちが乗りたい自転車を作っているという面があるわけですね。単に「A地点からB地点まで移動する」のではなく、その移動自体を楽しみたい。そういった姿勢がジオメトリにも現れているのではないかな、と。これは公式に説明されている話ではなく、私がドイツに行って開発者たちと接して感じた印象ですが。
baru:なるほど、自分たちが欲しいものを作っているわけですね。もう一つ不思議なのが、CFのリーチです。CF SLXよりもCFの方がリーチが長い。つまり、前傾を深く取りやすい。CFのSサイズのリーチを見ると、Aeroadと全く同じ390mmなんです。CFは旅用途も考慮していると思うので、普通ならCF SLXよりリーチを短くしそうなものですが、逆なんですよね。これは何故でしょう?
石山:そこは私が想像で答えるより、ドイツ本社に確認した方がいいと思います。ただ、的を射た回答が得られるかどうかは分かりませんが。
baru:分かりました。是非お願いします。
CF SLXをAeroadに近づけた理由は?
baru:「CF SLX」と「CF」の違いとして、ハンドル周りも大きいですよね。CF SLXはステム一体型のPACEバーで、空力重視。ただし、フロントバッグ等を取り付ける自由度は低くなる。この違いも、想定用途から来ているのでしょうか?
石山:そうですね。Endurace CF SLXは、前世代ではUltimate寄りのデザインでした。それが、今世代からはAeroad寄りに変わっています。空気抵抗を減らして、速く走ることを楽しんで欲しい。だから、そこにフロントバッグを付けてしまうと、せっかくの空力設計が意味を失ってしまう部分があります。

baru:コンセプトを考えると納得できます。CF SLXは、ダウンチューブの形状もかなり特徴的でした。あの複雑な造形は、やはり空力を意識しているわけですね。
石山:はい。ストレージの容量を稼ごうとするとダウンチューブを太くしたくなりますが、それでは空気抵抗が増えてしまいます。なので、なるべく細くするようにしたそうです。一方、CFは従来通りのUltimate寄りのオーソドックスなフレーム形状のまま。奇をてらっていない形です。CFを欲しくなるようなペルソナの方にとっては、こういったコンサバティブなものが受け入れられやすいという判断があるのかもしれません。
baru:ということは、CFは空力性能の向上をそれほど重視していない?
石山:前世代からあまり変わっていないと思います。もしかしたら、風洞実験自体やっていないかもしれません。一方、CF SLXは風洞実験をしっかりと行い、「空気抵抗を何W削減した」という話をしています。
baru:なるほど、やはりモデルごとに目的が違うからこそ、フレーム形状も作り分けているわけですね。
石山:同じ金型を使ってイメージを作り分ける方法もあると思います。でも、それではCanyonが考える性能や走る喜びを実現できないということなんでしょうね。
ヨーロッパではEnduraceが主流?
baru:日本ではAeroadやUltimateのようなレーシングロードが注目されますが、ヨーロッパではEnduraceのようなエンデュランスロードの市場が大きいというお話でした。なぜ、エンデュランスロードにそこまで人気があるのでしょうか?
石山:日本ではロードバイクに乗ることが、「週末の特別なイベント」という感覚もあると思うんです。でも、ヨーロッパではもっと日常的にスポーツを楽しむ人が多い。ドイツなら夏は夜10時くらいまで明るいので、夕方5時に仕事が終わってから「ちょっとロードバイクで走るか」という人も多いんです。自転車に限らず、散歩やランをしている人も多い。スポーツをやっている人のボリュームが多いので、自転車に乗る人の母数が大きいんですね。レースをする人は、その中ではむしろ特殊な存在と言えるかもしれません。
baru:そうなると、レース用の自転車よりも、普段から気軽に乗れる自転車の需要が大きいわけですね。
石山:はい。だからEndurace CFも、ユーザーがどのくらいの予算を自転車に使うのかを考えて価格帯が設定されていると思います。例えば、CFと同じ用途の自転車を、CFRのような高価なカーボンを使って1kg軽量化して150万円にしたところで、買ってくれる人がどれだけいるのか。多分いないですよね。そうならないよう、ユーザーのニーズとマッチする所を狙って自転車を作っているという感じだと思います。

baru:日本との道路環境の違いもありそうですね。今回は試乗コースにグラベルを組み込みたいと思っていたんですが、事前の調査では中々見つからなくて困りました。石山さんに教えてもらわなければ見つけられなかったと思います。でも、多分Canyonがあるドイツではグラベル的な道は普通にあるのでしょうか?
石山:たくさんありますよ。Canyonの本社があるコブレンツは、都市というよりも自然に囲まれた地域です。農道や脇道には未舗装路がたくさんあります。僕がCanyonに入社した時の同期にフィンランドの人がいるんですけど、ドイツよりさらに未舗装路が多いらしいです。オールロードというジャンルが登場する前から、シクロクロスバイクでそういった道を走っていたらしいですね。
baru:そうなると、32~38mmくらいのタイヤクリアランスは、特別な冒険のためではなく、日常的に必要になる、と。私もPBPでフランスを走りましたが、公式ルートは99%舗装路を走ります。しかし、前泊のホテルからスタート地点までの約40kmを自走したところ、突然未舗装路に入ることがありました。
石山:ヨーロッパだと、それが普通だと思います。

荷物を持たずに長距離を走る文化
baru:次は荷物の積載面について教えてください。CFはダボ穴も豊富で色々な荷物を自転車に積みやすく、大型サドルバッグを付けても挙動への影響が少ないと感じました。仮に私がブルベで使うならば、Enduraceの中でもCFを選ぶと思います。一方、CF SLXはダボ穴は付いておらず、ダウンチューブストレージのみ。そして、大型サドルバッグを付けると挙動への影響が大きく感じられた。あまり荷物を積んで走ることは想定されていないように感じました。ただ、長距離を走るにはどうしても荷物が必要になるはずです。
石山:ヨーロッパには、「サポートカー付きで1週間かけてアルプスを縦断する」と言ったようなサイクリングツアーもあるんですよ。レースではありませんが、ホテルや補給食が用意されていて、荷物はサポートカーが運んでくれる。毎日サイクリングイベントが行われている感じですね。
baru:なるほど、セルフサポートではないから、走者は荷物を持たなくて良い。
石山:そうです。以前はRaphaも、東京から日本海側や乗鞍などを経由して京都まで走る数日間のツアーを開催していました。荷物は運んでくれますし、メカニックも帯同します。そういう遊び方もあるわけですね。
baru:そうか、そういった形式のロングライドであれば、大型サドルバッグもフロントバッグも必要ありませんね。私の場合、ロングライドというとブルベのようなセルフサポートの走り方を思い浮かべてしまいますが、必ずしもそうではない。荷物を持たずに、毎日しっかりはしる。そういう用途ならCF SLXの設計も理解できます。

日本でのEndurace購入層
baru:ところで、日本でEnduraceを購入する人たちはどんな使い方をしているのでしょうか?
石山:実は、そこは私たちもあまり把握できていないんです。Aeroadのユーザー限定イベントを開催すると、似たような乗り方をする人が集まります。Ultimateも比較的ユーザー像が分かりやすい。2022年に小淵沢でUltimate限定イベントを開きましたが、ヒルクライム好きの人達が集まりました。でも、Enduraceの場合は、CFRとCFでは全くユーザー層が違うはずですし、さまざまな乗り方をする人たちが集まりそうです。
baru:なるほど、確かにエンデュランスロードは色々な使い方が可能ですし、その中でもEnduraceはモデルごとに想定ユーザー像が異なる。そうなると、確かにバリエーション豊かな人達が集まりそう。
石山:私たちから見ると、「この人の使い方だとEnduraceが合っているのでは」と思う方でも、Aeroadを欲しいと仰る人は結構います。試乗して乗り比べてもらうと、Enduraceの乗り心地を気に入って頂けるんです。でも、「どちらを買いますか?」と聞くと、やっぱりAeroadだと。もちろん、本人が気に入って乗っているなら、それはそれで正解だと思います。趣味ですからね。
エンデュランスロードのインプレについて
baru:石山さんとしては、その「Enduraceが合っているのでは」というのは、どんな乗り方をされている方をイメージされます?
石山:例えば、「別にレースはしません」「ヒルクライムもそんなに」という感じで、いわゆるサイクリングがしたい人に向くのではないかな、と。
baru:なるほど、確かにそういった方もエンデュランスロードの方がマッチするユーザー像だと思います。ただ、私としては、確固たる目的を持ってエンデュランスロードを買うような層の人もいると思うんですよね。私が「ブルベで使いやすい自転車が欲しい」と思っているのがまさにそれなんですが。例えばブルベの場合、「最後まで制限時間内に走り切る」ことが目的です。ただ、道中では雨が降るかもしれないし、夜になって気温が一気に下がるかもしれない。だから雨に備えて上下のレインウェアを携行するし、寒さに備えてウインドブレーカーやレッグウォーマーを持ったりします。さっき話した通り、ブルベはセルフサポートがルールなので、こうした荷物を何らかの手段で持ち歩かなければなりません。だからこそ、荷物を積みやすいこと、雨天でも問題なく走れることを重視します。長時間乗り続けても、疲労が蓄積しにくかったり、安定していて落車しにくいフレーム特性も重要です。一方、巡航からの加速や、踏んだ瞬間の反応性というものは優先度が低い。そういう使い方はしないので。
石山:なるほど、それは確かに。
baru:石山さんは私の「私的エンデュランスロード評価メソッド」の記事を読んで、今回のEnduraceの試乗レビューを依頼して頂いたと思うんですが、あの記事は世のエンデュランスロードのインプレ記事を読んで浮かんだ疑問に対して書いたものだったりします。ありえないですけど、クルマ雑誌で軽トラックの試乗レポートが載ったとして、荷台に何も荷物を積まずに高速道路で走らせて「なかなか良い走りをする」と評価しても、それだけでは本来の目的における性能を評価したことにならないですよね。軽トラというのは、荷台に荷物を積んで、農道のような荒れた道でこそ光る車種ですから。エンデュランスロードでも同じことで、「何のために作られたのか」を考えずに、レーシングロードの基準だけで評価していては片手落ちなのではないかと。そんな疑問に対するアンサーが「私的エンデュランスロード評価メソッド」なのでした。
石山:確かに、軽トラを空荷で転がしていたら「その荷台は何に使うんだい」ってなりますよね。それはEnduraceにおけるダボ穴やダウンチューブストレージも一緒です。開発者は、そこに荷物を付けたり格納した状態まで考えて作っているはずですから。

baru:はい。だからこそ今回、私は「ダウンチューブストレージに水を注いで良いですか」なんて変なお願いをしたわけです。結果、注いだ水はすぐに地面に流れたし、ストレージ用のバッグは防水仕様で、ストレージ内をドライに保たせようとしていることが分かった。開発者はそこまで考えが及んでいたわけです。
石山:その実験を見ていて「ちゃんと水が出て良かったー」と思いました。あれだけちゃんと水抜きが機能しているということは、そういった利用シーンを想定していたはずで。
baru:まさにそうだと思います。私の本業はシステムエンジニアなんですが、システム開発ではまず最初に「要件定義」を行います。発注者であるお客様が求める要望を整理し、システムで”何を実現するか”を明確にする作業ですね。そこで決まった要件を満たすために設計し、プログラムを実装して、最後にテストする。そのテストでは「最初に決めた要件を満たしているか」をチェックします。自転車も基本的似たようなプロセスで開発されているはずで、それならばテストにあたるインプレでは「何を実現するために作られたのか」を考慮して評価する必要があると思ったんです。「私的エンデュランスロード評価メソッド」の記事は「こうしたらどうだろう」という方法論をまとめたものですが、今回のEnduraceの試乗レビュー記事はその実地適用の第一弾となる予定です。
石山:いやぁ、どういう風になるか、記事を読むのが大変楽しみです。僕らとしては「こう書いてください」ということは何もありません。思ったままを書いてください。
baru:ありがとうございます。今回お聞きした話も踏まえて、試乗レビューをまとめたいと思います。
次の最終ページでは、今回試乗した2台を改めて比較し、それぞれどんな用途に適した自転車なのかを考えてみたいと思います。
