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「PBP=ドラクエにおけるラスボス」説
2027年の次回PBP開催まで2年を切りました。
私が以前から思っていた「ブルベにおけるPBPって、ドラクエにおけるラスボスっぽくない?」という説について少し掘り下げてみようと思います。
まえがき
私はよく、こんな例え話をします。
「PBPはドラクエで言うと正規のラスボス。
LELや1001 Migliaのような海外LRMは隠しダンジョンの裏ボス。」
特別な大会に位置付けられるPBP
世界中のブルベを管轄しているのはACP(Audax Club Parisen)。その中でも、かなり特別な扱いを受けているのがPBP(Paris-Brest-Paris)です。

通常、1200km以上のブルベは「LRM(Les Randonneurs Mondiaux)」として扱われますが、PBPはLRMではありません。PBPは唯一の「1200kmのBRM」というイレギュラーな存在です。
また、R5000やR10000と言った表彰は、PBPの認定が必須となっています。PBPの認定がなければ得られない表彰は多く、この点でも特別な位置付けであることが分かります。
主催者であるACPによって明らかに「特別なブルベ」とされ、全てのランドヌールが目標とする大会に位置付けられているPBP。参加するためにも前年に長い距離の認定が必要だったり、当年のSR相当の認定が必要だったりと、ラストダンジョンとも言える高いハードルが存在します。
まさにドラクエの世界で言う、「ラスボス」に相当する存在とは言えるのではないでしょうか?

ラスボスを倒せば壮大なエンディングムービーが流れ始め、ストーリーは一旦ハッピーエンドを迎えることになります。そこから先を続けるかはプレイヤー次第。実際、PBPの完走を境に、パッタリとブルベに出なくなる人も多いです。区切りをつけるには丁度よい機会であり、まさにそこも「ラスボス」感があります。
隠しダンジョンの奥にいる海外LRM
通常、RPGではラスボスが一番高い能力を与えられています。
しかし、ドラクエの世界には「隠しダンジョン」というものがあり、その奥にはラスボスよりも強い裏ボスが鎮座しています。ラスボスをクリアしてもなお、更にやり込みたいユーザー向けに用意された隠し要素というわけですね。

PBPというラスボスを倒して満足できない人は、さらなる「強いヤツ」を求めて隠しダンジョンに踏み入っていきます。LELや1001 Migliaと言った海外LRMは、まさに隠しダンジョンの奥に控える裏ボスと言えるでしょう。
ドラクエ6 RTAの話
突然ですが、私が中学生の頃にやっていた「ドラクエ6」のRTAの話をします。
ポイントは補助呪文
1990年代の終盤、私が中学生の頃にハマっていたのが、「ドラクエ6を如何に早く最後までクリアするか」というチャレンジでした。今で言うRTA(リアルタイムアタック)ですね。なかなかゲームを買ってもらえない家庭だったので、数少ない手持ちのゲームをやり込んでいたのでした。
ドラクエにおいて、この手のチャレンジには1つのコツがあります。「補助呪文の活用」です。
補助呪文は短時間攻略に必須
ドラクエには、「味方の攻撃力や守備力をアップする」「敵の守備力をダウンさせる」補助呪文というものが存在します。
私は味方にスクルト(守備力アップ)、バイキルト(攻撃力アップ)の補助呪文を使い、さらに敵のボスにはルカニ(守備力ダウン)の補助呪文を掛けながら戦っていきます。守備力がダウンしたボスに、攻撃力がアップした味方が攻撃すれば与えるダメージは倍。そして、味方は守備力がアップしているので、ボスからの攻撃でもあまりダメージを受けません。
ボスとの戦闘が終了すれば補助呪文の効果はなくなります。しかし、補助呪文を使うことで、戦いの最中に限ってはボスは弱くなり、味方は強くなります。これにより、時間を掛けてレベル上げをせずとも、短時間でボスを倒すことが可能になるわけですね。
しかし、ラスボスには補助呪文が効かない
厄介なのはラスボスです。ラスボスは、それまでのボスにはなかった数々の「これは嫌だな」という特性を備えています。
ラスボスにはルカニ等の能力を下げる補助呪文は効きません。ゲーム制作者側も補助呪文を使えば簡単にクリアできることが分かっているので、ボスにはそういった補助呪文への耐性を持たせているのです。
また、ラスボスは味方の守備力を下げるルカナンという技を使います。いわゆる「デバフ」というやつですね。ボスを弱体化する補助呪文が効かない上に、味方を弱体化させてくるわけです。嫌らしい。
さらに一番嫌なのが「いてつく波動」という技を使ってくることです。これは、味方に掛けた補助呪文を全て無効化する技。せっかくスクルトやバイキルトで能力をアップしても、いてつく波動を食らったら元の木阿弥。補助呪文の効果はなくなります。
ドラクエではラスボスと裏ボス以外、基本的にはこの技を使ってきません。それまで補助呪文だけに頼り切っていると、ラスボスには通用せずに全滅の憂き目に遭うことになるわけです。
その場合、以下のいずれか、またはすべての対策を取る必要があります。
- 地道にレベルを上げて、基本能力値を高める。
- ラスボスの攻撃パターンを調べて、効果的な防御策を考える。
- ラスボス特有の攻略法(効果の高い呪文や攻撃など)を見つけて使用する。
PBPとラスボスの類似性
さて、話をPBPに戻します。
PBPを「ドラクエのラスボス」と形容したのは、単に「ストーリー上で最後に位置付けられたボスだから」というだけではありません。前章で述べた、「補助呪文が効かない」「能力値を下げる補助呪文を使ってくる」「いてつく波動を使ってくる」という特徴を備えたブルベだからです。
海外ブルベは共通してそういった特徴を持っていますが、その中でも多くのランドヌールが最初に向き合う可能性が高いのがPBPです。
国内では補助呪文を知らず知らず使っている
国内でブルベを走る場合、我々は知らず知らずのうちに自らに補助呪文を掛けながら走っています。
補助呪文により、ルートの難易度を緩め、自らの能力を嵩上げしている状態にあるということですね。
母国語
最大の補助呪文は「母国語」です。
母国語であらゆるサービスを利用できる環境というのは、それだけで大いなる能力向上をもたらしてくれています。様々なサービスを気軽に使うことができますし、走行上のトラブルが起きても周囲と正確に意思疎通して解決することができますからね。
欠かすことができない食料の調達や、飲食店での食事においても注文の際にストレスがないのは大きいです。

往復宅急便のサービスを郵便局留めのサービスを使いこなし、「セルフドロップバッグを送る」なんてことも、その気になれば可能です。
日本特有の施設
日本特有の「施設」も強力な補助呪文です。

具体的には、様々な製品を24時間買える「コンビニ」。24時間汗を流せて仮眠もできる「健康ランド」や「ネットカフェ」。最近は減りましたが、深夜でも営業している「ファストフード店」「ファミレス」もあります。店がない環境でも飲み物が手に入る「自販機」も、日本のように野外においてある国は稀ですね。
基本的に「綺麗なトイレ」が使えるというのも個人的には大きいポイントです。
食べ物・飲み物
「食べ物が体に合う」というのも無視できない要素です。食べなければ走れませんので。

コンビニでは日本人の口に合う食べ物が手に入りますし、レストランもエスニックな店を選ばなければ日本人の口に合う味付けの料理が食べられます。
また、飲み物も大きい部分。日本で手に入る水は大抵が軟水。そして日本人の体はそれに慣れています。スポーツドリンクが自販機やコンビニで普通に手に入るのも大きいですね。
ちゃんと泊まれるホテル
「道中で泊まるホテルがちゃんと存在する」ことも当たり前ではありません。

日本ではまずないことですが、海外では予約したホテルが実際には存在しない(詐欺)ことは割とよくあります。ホテルが存在していても、部屋がダブルブッキングで泊まれなかったりという話もあります。
また、日本のように深夜までフロントが空いていることも世界では稀であり、いざホテルについても入口が閉まっていて入れない……なんてことも。
交通ルール/道路事情
国内の「交通ルールを知っている」「道路事情がある程度分かっている」というのも補助呪文の一つ。
交通ルールを誤解して事故に遭えば、そこでライド終了の可能性が高くなります。自国の交通ルールはある程度理解しているはずで、そうそう事故に遭うことはないでしょう。

また、自国の交通標識や案内看板が「どこに設置されていて、何が書いてあるか」を理解できることも大きい。道に迷っても、青看板や信号の下の交差点名から元のルートに復帰することが可能となります。
海外では補助呪文が効かない
さて、これが海外に出るとどうなるか。補助呪文のほとんどは効かなくなります。
ボスの守備力を下げる補助呪文は効きませんし、自らに掛けられていた補助呪文が「いてつく波動」で無効化された状態になるということです。
とりあえずここではPBPが開催されるフランスに行ったケースで考えてみましょう。
言葉の壁
フランスでは、当然ながら日本語は通じません。
最近は翻訳アプリなどもありますが、意思疎通がワンテンポ遅れます。トラブルが起きた時に間違って話が伝わるかもしれませんし、時間も掛かります。

食事をするにも一苦労。写真付きのメニューがあれば指差しなどで注文することもできるでしょうが、食べ物にありつくまでのハードルが上がり、ストレスが溜まります。しまいには食事が面倒になり、ハンガーノック気味になることも。
頼りになる施設はない
フランスでは大抵の施設が夜8時には閉まってしまいます。
日本と違って夜中でもATMだけは開いていますが、それ以外の施設は基本的にすべてクローズ。夜中に食料を入手する手段はほぼありませんし、トイレが使いたければ公衆トイレを使うしかありません。

コンビニもフランスにはありません。SPARやCarrefour Cityというコンビニに似た商店は存在していますが、深夜には閉まります。トイレの貸出も行っていない場合が多く、日本のコンビニとは別物と考えたほうが良いでしょう。
24時間営業の健康ランドやネットカフェも現在はありません。2000年代前半まではネットカフェ的な「cybercafé」というものが存在していたようですが、スマホの普及と共に消滅。気軽に仮眠できる施設はなく、PBPではPC内部の仮眠所に頼るしかありません。

フランスにも自販機は存在していますが、基本的には駅やホテルといった施設内にしかありません。日本のように、畑の中でポツンとハッピードリンクショップが存在していることはないのです。
食べ物・飲み物が体に合わないことも
フランスでは、当然ながら手に入る食べ物や料理の味付けは日本とは異なります。

現地の味が口に合えば良いのですが、そうではない場合はストレスを感じることになるでしょう。口を通らないこともあるかもしれません。
また、PBPのPCの食堂に限れば、栄養バランスが割りと偏りやすいです。意識的に野菜や肉を選択しないと、炭水化物だらけの食事になりがち。それが続くと体調を崩します。

また、フランスで手に入る水のほとんどは硬水です。軟水もありますが、そうそう手に入ることはありません。硬水が体に合わず、お腹を下す人の話は良く聞きます。
日本でおなじみ「スポーツドリンク」も、フランスではほとんど手に入りません。このため、PBP中は良く電解質不足に悩まされることはあります。
フランスでスポーツドリンクを作る場合はこうしたタブレット式のものや、粉末式のものを水に溶かすケースが多いようです。
ホテルに泊まれるか分からない
Booking.comやExpediaといった大手サイトで予約した場合はまず起こらないですが、その他の手段で予約したホテルが「廃業済みだった」「詐欺サイトだった」というのはフランスでよく聞く事例です。
ホテルが存在していても、まだ障害はあります。到着時間にホテルに入れない可能性があることです。
日本のビジネスホテルであれば、大抵は深夜でも入口は開いていて、呼び鈴を鳴らせば夜勤しているフロントの方に対応してもらえるケースが多いです。一方、フランスのホテルでは深夜にはフロントが閉まり、ホテルに入れないケースも良く聞きます。

大手ホテルだとフロントが24時間対応だったり、深夜でもチェックイン可能な自動チェックイン機を備えている場合がありますが、それらの割合はかなり少ないです。
せっかく予約しても、ホテルを眼の前にして立ち往生する可能性があるということです。
交通ルールや道路事情も良く分からない
大抵の国で交通ルールは似ていますが、細かい部分では違いがあります。そして、暗黙の了解的な内容も異なります。

日本は自転車が左側通行の国ですが、大抵の国は右側通行です。フランスも右側通行。右左折の感覚なども日本とは異なってきます。日本人は自転車で右カーブを走る機会が少ないので、苦手という人も多いです。

フランスでは郊外に信号はあまり無く、ラウンドアバウトが一般的です。日本にはほとんどラウンドアバウトはないので、慣れるまで少し時間が掛かります。慣れれば信号よりスムーズでありがたかったりもするのですが。

厄介なのが、日本には存在しない構造物の存在。街中には車を減速させるためにこのような装置がありますが、知らずに突っ込んだらイベント終了です。実際にこれで落車した人もいたようでした。

また、「白線に見える縁石」なんてものも存在します。白線に見えますが、実際には3cmほどの段差になっていて、タイヤのサイドを擦ると落車する可能性があります。特に夜間は分かりません。
フランスの一部だけでも見たことのない構造物が出てくるので、他の国でも恐らく知らない構造物が路上に存在することはあるでしょう。落車によるリタイヤに繋がるので非常に注意が必要です。
更に海外ではデバフが掛かる
海外では日本国内で受けられる補助呪文(いわゆるバフ)が無効化されることに加え、海外に行くことで自らの能力が下げられてしまう現象が起こります。いわゆる「デバフ」です。
海外ブルベでは共通してデバフが掛かりますが、ここではPBPのケースで考えます。
渡航疲れ・観光疲れ
フランスまでの移動は飛行機。直行便だと、羽田~シャルル・ド・ゴール空港で13時間が相場でしたが、昨今はロシア上空を通過できない関係で14時間半ほど掛かります。乗継便だと17-8時間前後は掛かるのが普通です。
この移動による渡航疲れが、海外ブルベ第一のデバフと言えます。

その時間を狭い飛行機の座席で過ごすと、案外体は疲れています。乗り継ぎが加わると更に疲労感は増すはず。

その上、大量の荷物を自転車を持って歩き回らないといけません。これも疲れます。
なんとかフランスの滞在先ホテルに辿り着く頃には、クタクタの状態です。そこから荷解きをして、自転車を組み立てて、準備して……どんどんと疲れは重なっていきます。
また、海外の空港における荷物の扱いはとても雑です。輪行箱ごと放り投げられるのは日常茶飯事。そうなると、組み立てた後に機材トラブルが発覚し、修理のために海外ショップに駆け込む必要があるかもしれません。これも疲労の原因になります。
だいたいの日本からの参加者はスタート2日前の夕方、フランスに到着します。この渡航疲れを抜くには2日間ではまるで足りません。スタートに経った時点で既に「1本ブルベを走ってきた」くらいの消耗をしている人が多いと思います。2019年のPBPでの私はまさにそんな感じでした。

さらに、「せっかくフランスまで来たのだから」ということでスタート前に観光ライドに出かける人も多いものです。50km以下くらいの軽いライドならば時差ボケの緩和や機材の確認として有用だと思うのですが、楽しくなってそれ以上の距離を走ってしまうと、「観光疲れ」も加わってきます。
「疲れ」は軽視されがちなのですが、走行ペースに如実に影響します。十分に気をつける必要があります。
時差ボケ
もう一つ、海外ブルベに加わるデバフが時差ボケです。台湾や韓国には時差がほとんどありませんので時差ボケは起きませんが、ヨーロッパやアメリカに行く際には時差ボケの影響を考慮する必要があります。
日本とフランスの時差は8時間ですが、PBPの開催時期はサマータイムが適用されて時差は7時間となります。これだけ時差があると時差ボケを避けることは難しく、夕方のなんでもない時間(といっても日本は既に深夜だったりする)に眠気に襲われることになります。
更に厄介なのは、フランスの標準時設定がちょっと変なこと。通常、時差は経度15度ごとに1時間付くものですが、パリは東経2度にも関わらず「UTC+1」の標準時を採用しています。本来は「UTC+0」で十分なはずなのですが。どうも第二次大戦の歴史的経緯でそうなったらしいのですが、サマータイム+1時間と合わせて「体感から2時間ズレる」という結果が生じています。

PBP開催時期の日本は19時ごろに日没となりますが、フランスでは21時頃が日没時刻。この写真は21時20分のものですが、まだ明るいですよね。逆に、朝は7時頃まで真っ暗です。昼間の時間が2時間ほど後ろにズレているイメージ。
時差ボケに加え、昼間の長さが2時間ズレることによって、体内時計はかなりの混乱を引き起こします。

眠気のコントロールが効きにくくなり、ペースは落ち、仮眠の回数も増えてさらに停止時間も増える……時差ボケにはそんなリスクがあります。
夜スタート
そんな体内時計が狂った所に、さらに追い打ちをかけてくるのが、「PBPは夕方~夜スタートである」という事実です。
PBPで一番多くの人が参加する90時間部門は、17:30~21:00まで、15分ごとのウェーブスタートとなっています。ちなみにこのスタート時間帯を日本の時刻に直すと、深夜0:30~4:00。真夜中ですね。
渡航疲れは抜けきらず、体内時計が狂った所に、実質の深夜スタート。会場のテンションで気分は盛り上がりますが、体は多分ボロボロです。
それに加えて嫌なのは、「夕方スタートの1200kmブルベは夜が1回多くなる」ということです。

これは朝6時スタートの1200kmと、19時スタートの1200kmの昼夜を図式化したものです。朝スタートの場合は3泊4日で終わりますが、夜スタートの場合には4泊5日と、1泊増やす必要があります。寝ている間は前には進みませんので、その分だけ走っている間のペースを上げないとなりません。
ドラクエのラスボスは1ターンに3回攻撃してくることもありますが、PBPも通常の1200kmブルベよりも1回多く攻撃してくるということですね。
1224kmでも制限時間は90時間
さらにさらに。PBPは「1200km」と言われますが、実は1200kmではありません。毎回、20km前後の「おまけ」区間があります。
以下は、日本勢が参加し始めた2023年以降のPBPのコース距離です。
| 開催年 | コース距離 |
|---|---|
| 2003年 | 1225km |
| 2007年 | 1227km |
| 2011年 | 1230km |
| 2015年 | 1230km |
| 2019年 | 1221km |
| 2023年 | 1224km (当初1219kmだったが直前に+5km伸びた) |
ここ数回で一番長かった時のコース距離は1230km。30kmもの「おまけ」が付いても、制限時間は90:00のまま伸びることがないのがPBPです。これはPBPが「唯一の1200kmBRM」であることが理由。
PBP以外のLRMは、下記の規則によって制限時間が計算されます。
- 1200 ~ 1299 km: 時速13.33km平均
- 1300 ~ 1899 km: 時速12.00km平均
- 1900 ~ 2499 km: 時速10.00km平均
例えば、先日北海道で開催されたJG1200のコース距離は1205.9km。これを平均時速13.33kmで割ると、「90時間27分」という制限時間になります。ちゃんと距離が伸びた分だけ制限時間も伸びるわけです。
しかし、PBPは1220kmでも1230kmでも、制限時間は同じ「90時間00分」。1230kmのLRMなら、制限時間は92時間16分となるのに、PBPにはそういった慈悲はありません。
ドラクエではラスボスのみが使う無慈悲な攻撃があったりしますが、「距離が伸びても制限時間は伸びない」というのはまさにそれ。「ブルベのラスボス」としての風格が漂います。
ラスボス特有の対応策
前章の話で、PBPがいかに「正規ラスボスとしての特徴」を備えているかは分かって頂けたと思います。
では、こうしたラスボスに対してどんな対策を取ったら良いか? それは、先に示した「ドラクエのラスボスに勝つためのアプローチ」と同じです。
- 地道にレベルを上げて、基本能力値を高める。
- ラスボスの攻撃パターンを調べて、効果的な防御策を考える。
- ラスボス特有の攻略法(効果の高い呪文や攻撃など)を見つけて使用する。
それぞれについて、ブルベに当てはめるとどうなるかを見ていきましょう。
レベルを上げて能力値を高める
これは単純で、「日本にいるうちに走力・体力を上げておく」という話になります。
できるだけ多くのブルベに出て、走力と体力を上げる。補助呪文が無効化されても、デバフが掛かろうとも、「1200kmくらいは軽いぜ!」と言い切れるような走力を付けておくということです。いわゆる「筋肉で殴る」というやつですね。

ただ、これには先天的なフィジカルも必要となるので、いくら頑張っても「強化」だけではどうにもならない人もいます。走力・体力の強化に加えて、ラスボス特有の対策を取る必要はどうしても出てくるはずです。
攻撃パターンを調べて防御策を考える
これは「いてつく波動」や、PBP特有のデバフへの対策です。
知らなければ対策できない攻撃も多いですが、知っていれば対策を立てることは可能です。

幸い、PBPは実に多くのレポートをネット上で読むことができます。こうしたレポートから、PBPというラスボスが使ってくる攻撃を分析し、それを防御する策を自分なりにイメージしてみてください。
よくある攻撃と、それに対する防御策の例を以下に挙げます。
| 攻撃 | 対策例 |
|---|---|
| 言葉の壁 | ・渡航先の言語を学習して身につける。 ・同時通訳アプリを活用する。 ・現地の言語を使わなくても、買い物や食事をできる場所を使う。 (例: Carrefourの無人レジや、マクドナルドのタッチパネル注文など) |
| 食料の調達 | ・PCの売店やレストランを利用する。 ・コース沿いで、PBP参加者向けに営業している店(レストランやバー)を利用する。 ・私設エイドに立ち寄る。 |
| 汗を流す | ・基本的にはPCのシャワーを使うしかない。 ・ホテルが手配できたら、そこで汗を流す。 |
| トイレ | ・コース沿いの公衆トイレを調べておく。 ・「教会の近くにはトイレがある」などの法則を覚えておく。 |
| 食べ物との相性 | ・マクドナルドやバーガーキングなど、世界的なチェーン店を利用する。 ・日本から食べ物を持ち込み、走行時の荷物に含めておく。 |
| 飲み物との相性 | ・手に入る軟水ミネラルウォーターの銘柄を覚えておく。 ・スポーツドリンクを作るためのタブレットや粉末を持参する。 |
| ホテル | ・できるだけ大手の予約サイトから予約する。 ・自動チェックイン装置のあるホテルを選ぶ。 |
| 交通ルール | ・生成AIなどを駆使し、日本とのルールの違いを理解しておく。 ・標識など最低限のルールはこちらのページを見ておく。 |
| 道路状況 | ・参加者のレポートにこういう話はよく出てくるので読んでおく。 ・ストリートビューでコースの路面状況を見ておく(特に街中は変な構造物がある)。 |
| 渡航疲れ | ・直行便を使う。 ・スタートよりできるだけ前に現地入りし、疲労回復を意識して過ごす。 ・とにかく現地に着いたら寝る。長く寝る。 |
| 観光疲れ | ・スタート前に50km以上の走行はしない。 |
| 時差ボケ | ・サッカーやテニス選手など、海外遠征でスポーツをする人たちの対策を参考にする。 ・現地では日光を浴びて体内時計をリセットする。 |
| 夜スタート | ・最初の夜(スタートから数時間後)に短めの仮眠を取るように計画を立てる。 ・道中に1泊でもホテル泊を入れるとかなりリフレッシュできる。 |
| 距離が伸びても 制限時間変わらず | ・どうしようもない。頑張るしかない。 |
ラスボス特有の攻略法を使用する
ラスボスにも弱点は用意されています。
ドラクエ6のラスボス「デスタムーア」を例に取ると、ライデインやメラゾーマなどに弱い特徴があります。また、バーバラが使える極大魔法「マダンテ(炎属性)」も効果的です。
ブルベのラスボス・PBPにも「特有の弱点」……というか、バフのようなものが存在しています。
多くの機能を備えたPC(チェックポイント)
PBPでは、約80kmごとに主催者が用意したPC(チェックポイント)が存在します。

日本ではコンビニがPCに指定されることが多いですが、PBPでは夏休み中の学校が使われることが多いです。
PBPのPCは以下のような設備を備えています。
| 設備 | 内容 |
|---|---|
| 駐輪場 | 大規模な駐輪場。基本的にはサドルを引っ掛ける方式。盗難注意。 |
| コントロール | ブルベカードにチェックを貰う場所。 |
| レストラン | 本格的な食事を取れる食堂。 |
| カフェ/バー | 軽食を買える売店。 |
| 売店 | 補給食やパーツを買える売店。 |
| 仮眠所 | ベッドやマットが備えられており、数時間単位で寝られる場所。 |
| 給水所 | ボトルに水を汲める場所。 |
| トイレ | 文字通り。仮設トイレであることが多いが、学校のトイレも使用可能な場合がある。 |
| シャワー室 | 文字通り。学校の部活動向けのシャワー室を使うことが多い。 |
| メンテナンスサービス | メカニックがいて、自転車を点検してくれる。 |
| 救護室 | 体調不良の場合の診断や、薬を出してくれる。 マッサージルームが併設されている場合もある。 |
| 充電ブース | 大量にコンセントが並んでおり、ライトやサイコンを充電できる。 |
フランスにはコンビニもネットカフェもありませんが、それらの機能が1箇所で得られる場所がPBPのPCであると言えます。

ただし、ラッシュタイムには多くの人が滞在するので、非常に混雑します。敷地も物凄く広いので、気がつけば1~2時間は経過している時間泥棒な場所でもあります。
いかにPC内の施設を効率的に使用するかが、PBP攻略の鍵です。
常にやってくるトレイン
通常、ブルベの参加者は多くても100人程度。一度ボリュームゾーンから遅れてしまうと、基本的には単独走となることが多いです。
一方でPBPの参加者は約7000人。文字通り桁が違います。これだけ参加していると、ほぼルート上には途切れずにトレインが存在し続けることになります。

このトレインを上手く利用できると、体力を消耗せずに平均速度を上げる事ができます。いかにトレインを上手く利用できるかが、PBP攻略の一つのポイントとなるでしょう。
なお、身の丈に合わない速度のトレインに乗ってしまうと逆に消耗します。ご注意。
信号は(ほぼ)ない
PBPのルート上には、ほぼ信号がありません。大きな街(フジェールやブレストなど)には信号がいくつかありますが、コース全体で20箇所も信号はないと思います。

そうなると、巡航速度≒グロス移動速度になります。信号の多い日本国内でグロス20km/hを保つのは大変ですが、PBPではそこまで難しくありません。ただし、そこで稼いだ時間のほとんどは、PC内で過ごす時間として消費されます。日本のコンビニPCのように数分で離脱することは不可能ですからね。

また、信号がないと、常にサドルとお尻が接している状態になります。必然、お尻の痛みが出るのも早くなります。意識的に立ち漕ぎを入れたり、何もない所で停止してお尻を圧迫から解放する工夫が必要となるでしょう。
多くの場所に存在する私設エイド
PBPは100年以上続く、いわば「お祭り」です。ルートも大体固定化されており、沿道の住人の方々が好意で食料や飲み物を提供してくれるスポットが多数存在しています。これを日本人は「私設エイド」と呼びます。

完全に好意で出してくれているものなので、置かれている食べ物や飲み物は千差万別。基本的には料金は無料であることが多いですが、投げ銭を受け付けている場合もあります。お世話になったら必ずお礼をいいましょう。

私設エイドの中には大規模なものもあり、睡眠スペースやメカニックブースを用意してくれていることもあります。PCの仮眠所で寝られなければ、こういった場所を狙うのも手。ただ、睡眠スペースのある私設エイドは多くありません。
まとめ
以上、「PBPはブルベにおけるラスボス」説でした。
こうして改めて書いてみると、「やっぱりPBPはブルベの正規ラスボスだな」と私は思えたのですが、皆さんはいかがだったでしょうか?
数年に一度「PBPは初心者向け」というワードがSNSでバズることがあります。ただ、これは「海外で開催される1200km以上のブルベの中では」という前提が省略されています。
海外の1200km以上のブルベの中では、PBPがもっとも情報収集しやすいですし、起こる問題やその対策も出尽くしている状態にあります。その上、主催者が準備したPCや、私設エイドと言ったサポートも存在します。正しく準備すれば、ドラクエのラスボス同様に倒せる存在なのです。
しかし、その一番攻略しやすいPBPですら、ここまで述べてきたように海外ブルベ特有の攻撃を繰り出してきます。決して簡単に倒せる相手ではありません。

次回PBPまで、ちょうどあと2年。恐らく、初の海外ブルベをそこで経験される方も多いはず。簡単な相手ではありませんが、決して倒せない相手でもありません。
本記事で述べた「ラスボス特有の攻撃」への対策をイメージしつつ、万全の準備をして臨んでください。
著者情報
年齢: 41歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: GHISALLO GE-110(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。
# これまでに著者が乗ってきたスポーツ自転車の履歴はこちらの記事にまとめています。

