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携帯可能な電動ポンプの歴史と現在
本記事は、【ロードバイク Advent Calendar 2024】 18日目の記事として作成されました。
2024年、急速に普及した「携帯可能な電動ポンプ」。その歴史について振り返り、2024年末の現状について紹介していきます。
はじめに
2024年の自転車界隈でブームになったものの一つが「携帯可能な電動ポンプ(以後、携帯電動ポンプ)」です。
携帯電動ポンプとは
携帯電動ポンプは、読んで字のごとく「携帯可能な電動ポンプ」です。あるいは、「携帯ポンプが電気の力で動くようになったもの」と考えても良いかもしれません。
従来、携帯ポンプと言えば、「手で押して空気を入れる」ものを指しました。
何百回も手でピストン運動を繰り返し、高圧になると顔を真赤にして汗を垂らしながらの作業。正直、面白いものではありません。
そんな苦労を電気の力で肩代わりしてくれるのが、携帯電動ポンプです。
数年前から注目はされ始めていたものの、これほど一般化したのは2024年に入ってからです。
「液晶画面を備え、指定した空気圧で自動的にストップする」タイプの携帯電動ポンプの登場が普及の大きな理由となっていると思われます。
私と携帯電動ポンプ
この段は読み飛ばしてくれても構いません。この記事を書いている人と、電動携帯ポンプの関わりについてです。
私は昔から携帯ポンプを色々試してきたほうで、当サイトの「携帯ポンプ」カテゴリには50以上の記事があります。それだけの数の携帯ポンプを試してきました。
ただ、手動のポンプは昔から大きな進化はなく、小手先の進化にとどまっていた印象があります。
一つの転機となったのは、2018年。1本のとある中国製ポンプでした。いわゆる「例のポンプ」と呼ばれたものです。
このポンプはピストンを引く際にポンプ内部に空気を圧縮し、次にピストンを押し込む時のアシストをしてくれる仕組みを内蔵していました(内部圧縮機構)。
低圧ではあまり効果を感じないものの、高圧に達するとこの機構の有無は明確に違いを感じられます。従来の携帯ポンプでは5気圧を超えるとピストンを押し込めませんでしたが、このポンプは7気圧でも普通に押し込めたほどです。この内部圧縮機構はその後、TOPEAKやPanaracerのポンプにも取り入れられました。
ただ、物理的に考えて内部圧縮機構を超えるブレイクスルーが今後起きるとは思えませんでした。この機構は、人力で高圧の空気を入れる方法としては、一つの到達点のように思えたからです。そして、ロードバイクのタイヤはどんどんと太くなっていき、求められるエアボリュームは増大傾向にあります。手動で空気をいれるのには、そろそろ限界が来ているのではないか?
……となると、次世代は人力ではなく「電気の力」に頼ることになるはずだ、と考えました。
こちらは2020年2月に書いた記事ですが、その中で私は以下のように書きました。
ここからは私の想像ですが、今後は「電動携帯ポンプ」の時代が来るのではないかと思っています。「例のポンプ」を見つけてきたチャリモさんも似たようなことを言ってました。
どんどん太くなってエアボリュームが増えるタイヤに人力で空気を入れるのは、もはや難しくなってくるはず。となると、電気の力を使うことになるのではないかな?と。
それから4年経った現在、この予想は現実のものとなったわけです。正直、そんな早く実用的な電動ポンプが登場するとは思っていませんでしたが。
携帯電動ポンプの歴史を振り返る
そんなこんなで携帯電動ポンプが一般化した2024年末。このタイミングで、携帯電動ポンプの歴史を振り返ってみようと思って書いたのが本記事です。
電動ポンプ自体は自動車向けとして古くから存在しており、それを自転車に流用した例もあったはず。このため、「最古の携帯電動ポンプが何か?」については良く分かりません。
本記事では、明確に「自転車用途」と銘打って発売された電動ポンプについて、見つけられたものを時系列に紹介していきます。詳細な条件を書くと、以下のようなものです。
- 自転車用に発売された電動ポンプであること。
- 重量500g以下であること。
- ライド中の携帯を考慮されていること。
携帯電動ポンプの歴史
携帯電動ポンプの歴史を時系列に紹介していきます。
2016年
確認された限りでは、自転車用途で最も早く登場した電動ポンプは、中華メーカー「UOMI」のポンプ「Smart Air Pump M1」でした。
UOMI「Smart Air Pump M1」
日本にも2016年中に入荷しており、ワールドサイクルがレポート記事を残しています。
大きめのモバイルバッテリーのような形状、公称重量は400g。3.7V/2750mAhの容量多めのバッテリー(恐らく18650)を積んでいます。価格は13760円(税込)。
このポンプは既に液晶を備え、指定空気圧での自動ストップが可能でした。最新の携帯電動ポンプの仕組みを既に持っていたわけですが、いかんせん大きい&重かったのです。
私がいつも行っているショップにも入荷していましたが、400gと手動ポンプの4倍近い重量&それなりに大きかったことから購入には至りませんでした。ちなみに、この製品を輸入していたのはNCD。現在のCYCPLUSの国内代理店です。ブレてませんね。
QZT「スマートエアポンプ」
もう一つ、同時期に登場していたのがQZTというブランドの「スマートエアポンプ」です。Youtubeには2016年8月の動画が残っています。
どこの国のブランドかはっきりしませんが、恐らく中華ブランドでしょう。一時期、Aliexpressで同型のものをたくさん見た気がします。
大きめの円筒形状で、公称重量は460g。バッテリー容量は不明。
シガーソケット用のアダプタも付いていて、メインは自動車用だったようですね。ただ、自転車用の延長ホースも付属しています。Amazonで5000円程度で買えたようで、それなりにレビューが見つかります。
こちらも液晶を備えており、指定空気圧での自動ストップが可能だったようです。初期製品は大型だったものの、機能的には現在のものに近かったようですね。
2017年
2017年には、一気に携帯電動ポンプの小型化が進みます。
FumpaPumps「Fumpa/miniFumpa」
2017年、ラスベガスで開かれた展示会「インターバイク」で注目を集めたのが「Fumpa」です。
オーストラリアのガレージブランドであるFumpaPumps。この展示会には、通常サイズの「Fumpa」と、小型の「miniFumpa」を出展していました。以下、スペックの比較です。
Fumpa | miniFumpa | |
---|---|---|
重量 | 378g | 187g |
大きさ | 42x73x87mm | 32x56x68mm |
バッテリー | 550mAh/11.1V | 300mAh/7.4V |
液晶 | あり | なし |
空気圧指定 | なし | なし |
注目を集めたのは、「mini」のほう。
200gを切る重量というのは当時としては衝撃的でした。サイズ的にも、口金を外せばツール缶にも入ってしまうコンパクトさ。それまでは「携帯と言うにはちょっと……」という大きさでしたが、はじめて本当に携帯可能な重量とサイズの電動ポンプが誕生した瞬間です。
従来の形状とは違い、小さい直方体。現代の携帯電動ポンプの多くはこの直方体のボディを採用しており、その意味でも現代の携帯電動ポンプの祖がFumpaと言えるでしょう。
ただ、先達の電動ポンプが備えていた液晶は備えず、「50秒で自動停止する」という仕組み。フルサイズのFumpaは液晶は備えるものの、リアルタイムの空気圧を表示するだけ。プリセットした空気圧で自動的に止まる機能はありませんでした。
小型化には成功したものの、省かれてしまった機能もあったと言えます。
2018年になり、某ショップでminiFumpaを触る機会を得ました。私が初めて電動ポンプに触れたのはこの時です。
本当に小さく、ツール缶に入るサイズで驚いたことを覚えています。同時に、動かしてみてその音の大きさにも驚きました。「電動ポンプはめちゃくちゃうるさい」ということが、私の中に刷り込まれました。
2017年以降、しばらく電動ポンプに関しては動きがありませんでした。
2021年
「恐らく、次の世代の電動ポンプはAliexpressから出る」と予想していた私は、日々Aliexpressを巡回して「portable electric pump」のワードで検索をしていました。
ある日、「これだ!」というポンプを発見しました。
XUNTING「電動エアポンプ」
Aliexpressで「166g」と書かれた電動ポンプを見つけたのです。
長い筒型で、手動携帯ポンプのような形状。画像には166gの文字があります。写真の手との対比が本当ならばかなりの小ささです。
価格は3000円と妙に安かったので怪しみながらも注文してみたのですが……。
届いたのは、写真とは似ても似つかぬ巨大なポンプ。重量は公称の2.5倍の402gと、完全な詐欺製品でした。製品が届くと同時に商品ページは消滅。Aliexpressの怖さを思い知ったエピソードです。
果たしてこの166gのポンプというのは当時本当に存在していたのか? 今となっては分かりません。
2022年
全く話題になっていませんでしたが、2022年にはFumpaの最新作が発売されています。そして日本企業が電動ポンプ業界に参入しました。
FumpaPums「nanoFumpa」
正確な発売時期は不明ですが、2022年5月以前にはFumpaの最小モデル「nanoFumpa」が発売になっています。
miniFumpaより更にひと回り小さくなり、Type-C端子に変更。そして重量はなんと100gを標榜しています。ついに、手動携帯ポンプと同程度まで軽量化が進みました。
「100g」「世界最小」というスペックだけ見るとかなり話題になりそうなものですが、発売時点では全く話題になっていませんでした。翌年3月になって私が偶然に存在に気づき購入したのですが、その時点でレビューなどもほとんどなし。良いものを作っても、知られなければ意味がないということですね。
手元に届いたnanoFumpaは確かに公称重量通り。ただ、空気充填能力はそれほど高くなく、後から出てきたCUBEに負けていました。
機能面ではminiFumpaを踏襲しており、50秒で自動停止する仕組み。液晶は備えず、指定空気圧で自動的に止まる機能はありません。miniFumpaでは50秒で25Cタイヤを6気圧に持っていくパワーがあったので良かったのですが、nanoFumpaは50秒の充填で25Cタイヤに2.8気圧しか入りませんでした。実用的な空気圧にするためには3セットほど実行する必要があり、せっかくの電動ポンプなのに操作が面倒でした。
日邦電機「ELXEED-G01」
2022年7月には、日本の小型モーターメーカー・日邦電機が自転車用電動ポンプに参入しています。
形状は太めの円筒タイプ。直径はツール缶にも収まる程度となっており、重量は公称360gとなかなか軽くしてきました。液晶も備え、指定空気圧で停止する機能も付いています。
ただ、既に190gのminiFumpaが存在していたこともあり(実は100gのnanoFumpaも出ていた)、あまり話題にはならず。雑誌では何度か紹介されましたが、周囲で使っている人は見かけませんでした。
2023年
2023年はCYCPLUSの年だったと思います。クラファンの後に発売された「CUBE」は瞬く間に浸透しました。
CYCPLUS「CUBE(後に”AS2″へ改名)」
2022年末に突如としてクラウドファンディングを実施、公称97gとコンパクトサイズを引っ提げて登場したのがCYCPLUS「CUBE」です。
Aliexpressでまんまと166gに騙された私は「どうせ出来上がったら150gくらいなんだろう?」と警戒しながらもクラファンに参加。そして、2023年3月に完成した製品を受け取りました。
届いたポンプは本当に97gで、本当に小さかったのです。これには驚きました。クラファンでまともなものが届くこともあるのか!と。本当に携帯可能な電動ポンプがついにて出てきたわけです。実際にはnanoFumpaが既に発売していたわけですが、恐らくCYCPLUSはそれを研究して全局面で勝る製品を出してきたのでしょう。
性能的にも「普通に使える」レベルに到達していました。このサイズで実用に足る性能という時点ですごい。
ただ、液晶を備えておらず、自動停止機能も備えていませんでした。空気充填停止をするためにはスイッチを手動で押す必要があり、操作性の面では少々惜しい感がありました。
2024年
いよいよ今年です。ついに電動ポンプを携帯することが一般化した一年だったと思います。
CYCPLUS「AS2 PRO」
2024年3月、衝撃の「CUBE」発売からちょうど一年経ったタイミングでCYCPLUSは兄弟機「AS2 PRO」「AS2 PRO MAX」が発表されました。
CUBEと同程度のサイズを保ったまま、空気圧を表示可能な液晶を搭載。指定空気圧での自動停止機能も搭載しながら、重量アップは+20gに留められました。たった120gで、「指定空気圧で勝手に止まる」機能を持った電動ポンプがついに誕生したわけです。
「別に手動で空気の充填を止めればいいじゃん」と思っていた私でしたが、実際に触ってみるとこの機能が非常に便利で手放せなくなってしまいました。
それでいてツールケースにすっぽり収まるコンパクトさ。
ようやく、多くの人が「持ち歩いても良い」と考える「サイズ」「重量」「充填能力」「操作性」を兼ね備えた電動ポンプが出てきたことになります。AS2 PROは2024年のヒット製品になりました。
日邦電機「ELXEED-BL01」
AS2 PROの登場から半年たった2024年10月。2022年に電動ポンプ界に参入した日邦電機が新たな電動ポンプを発表します。
公称重量108g。液晶を備え、指定空気圧で自動的に止まる機能も備えています。スペック的にはAS2 PROと真っ向勝負となりますが、価格はAS2 PRO(16000円)よりも安い12000円程度に設定。これもかなりの話題を呼びました。
実測重量は118gと、公称より1割重かったものの、性能的にはなかなかのもの。日本企業プロデュースの底力を見せてくれた製品です。
2024年末現在の携帯電動ポンプ事情
2024年末における携帯電動ポンプの現状をまとめておきます。
100g台の携帯電動ポンプが多数発売
AS2 PROの発売あたりから、似たようなスペック(液晶あり・自動停止機能あり・150g前後)の電動ポンプがAmazonなどで続々と登場しました。
いずれも1万円以下で、スペック的にはAS2 PROと近いものが多いですが、品質・性能まで同じとは限りませんので注意したほうが良いでしょう。大電流を流す機器ですし、ちゃんとしたブランドのものを選んだほうが良いと思います。
なお、私はELXEED-BL01にそっくりな別ブランドのポンプが6000円で売っていたので買ってみましたが、性能的には実に酷いものでした。ガワが全く同じでも中身は別……そんなケースもあるのでご注意ください。
有名メーカーが携帯電動ポンプに参入
これまで携帯電動ポンプは小規模メーカーや中華ブランドの独壇場でしたが、徐々に自転車系の大手メーカーが電動ポンプに参入し始めています。
まずはTOPEAK。来年、携帯電動ポンプを発売するそうです。162gとやや大きめですが、非常に静音でした。空気圧を表示する液晶を備え、指定空気圧で自動停止する機能もついています。
使い勝手なども考えられており、さすがTOPEAKといったところ。
もう一つはMuc-off。公称97gのポンプです。300mAh/8.4Vと微妙に他社より電圧が高いのが謎。液晶は備えておらず、自動停止機能もありません。操作方法を見ると、CYCPLUS「AS2」ともしかしたら中身は同じかも(起動方法が一緒)?
今後も有名メーカーの参入が続くかもしれません。
バッテリー別体型は出てこない?
今のところ、自転車用の携帯電動ポンプは全てバッテリー内蔵型で、バッテリー別体型(USB経由で電源を取れる)のものは存在しません。
恐らく、自転車用の電動ポンプの場合、性能を出すのにかなりの電流量を流しているからではないかと推測しています。
例えば、AS2 PROは430mAh/7.4Vのバッテリーを200秒ほどで放電しますが、これから電流量を計算すると7.7Aもの電流を流している計算となります。これをUSB接続で実現するのは難しいはず。USBで流せる上限は通常3A、PDでも5Aまでなので。
今の携帯電動ポンプは10分も充電すればタイヤ1本分の電力を蓄えられます。電動ポンプとは別にモバイルバッテリーを持ち歩き、電動ポンプのバッテリーを使い切ってしまったら、モバイルバッテリーから電動ポンプを充電するのが現実的な使い方になると思います。
まとめ
携帯電動ポンプの歴史と現在について紹介しました。
(調べた限りでは)登場からわずか8年でかなり早く浸透したアイテムだということが分かりました。小型化という意味では2017年から5年ほど停滞がありましたが、そこから一挙に時代が進んだ気がします。
手動の携帯ポンプは既に最終形態に近いところまで来ている気がしますが、電動の携帯ポンプはまだまだ先があるはず。これからの進化を楽しみに注視していこうと思っています。
まずは……もうちょっと静かになると良いですね。かなりの音量なので。その点はTOPEAKのポンプには期待できそうです。
著者情報
年齢: 40歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: GHISALLO GE-110(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。