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TOT(Tokyo-Osaka-Tokyo)の話
本記事は、【ロードバイク Advent Calendar 2024】 4日目の記事として作成されました。
東京~大阪間を往復するロングライド「TOT(Tokyo-Osaka-Tokyo)」についての情報をまとめた記事です。
成り立ちと概要、あとチャレンジする方に向けて経験者からのアドバイスを書いています。
はじめに
ここ最近、「東京大阪キャノンボール」を達成した方から、次の目標として「TOT」のことを聞かれる機会が増えました。
私もかつて2010年に大阪→東京、2011年に東京→大阪の24時間切りを達成。翌年の2012年には往復コースである「TOT(Tokyo-Osaka-Tokyo)」に挑戦しました。
「TOTについて調べてみたけど、あまり情報が見つからない」という声をいただいたので、この機会に情報をまとめておこうと本記事の執筆を決めました。
TOTとは
TOTの概要と成り立ちについて書いていきます。
概要
その名の通り、東京~大阪間を往復するロングライドです。それ以外の縛りは特にありません。
コース
東京・日本橋の道路元標を出発し、大阪・梅田の元標で折り返し。再び東京・日本橋に戻って来るコースとなります。
道中のルート取りには、キャノボと同じく特に制限はありません。
距離
ルートにもよりますが、約1020~1100km程度になります。
制限時間
TOTには、明確に定められた制限時間はありません。
サポート
キャノボでは第三者サポートは不可ですが、TOTには特にそういった制限はありません。複数人で走ることも禁止されていません。
認定
キャノボと同じく自己完結型の自主イベントなので、特に認定機関による認定はありません。
成り立ち
一応、このコースの名付け親は私(baru)ということになっています。もしかしたらそれ以前にも構想していた方はいるかもしれませんが。
キャノボスレでの初出
こちらの記事に書いた通り、2011年9月に2chキャノボスレで「キャノボ達成後の次の目標」の話題があった際に、候補として書き込んだのが「TOT」でした。
この年(2011年)は、フランスでPBPが開催された年です。まだ当時はTwitterでもそれほどPBPに関する情報が話題になっていたわけではないですが、周囲の仲間で参加した人からPBPの熱狂については聞き及んでいました。PBP開催の翌月ということで、私の頭にもPBPの余韻があったと見え、TOTという呼称に繋がったものと思われます(よく覚えてない)。
PBPは1200km。TOTは約1100km。距離的にも近いですし、首都と港湾都市を結んでいる点でも共通。東西移動なのも一緒。PBPへのオマージュとしてのTOTは中々綺麗な対照関係が出来ていると思います。
将軍さんによるイベント企画
2012年7月30日、唐突に将軍さん(キャノンボール達成者)がこんなイベントページを立ち上げました。
「10月、体育の日の三連休にイベントとして、みんなで”TOT”をやろう!」というもの。
将軍さんは当初「一人でTOTをやろう」と思ったものの、「一人じゃ途中でやる気が無くなる未来しか見えない」ということでイベント化し、複数人でチャレンジすることを考えたそうです。実際、ブルベも「一人でやっていたら途中でやめてる」という経験は何度もあります。たとえパックを組んで走らなくても、「同じコースを同じタイミングで走っている人がいる」という事実だけで普段よりも頑張れたりするものです。
実はこの時点では私はTOTに参加する予定はありませんでした。その日は「東京糸魚川ファストラン」の秋イベントがあり、そちらに出るつもりだったからです。
私主催でのイベント開催
2011年8月のある日、将軍さんからDMが届きました。
実は急に台湾転勤が決まって、TOTは出られそうにありません。
言い出しっぺが不参加だと、企画が空中分解するかもしれない。
そこで、baruさんに主催者兼参加者役をお願いしたい。
代打がbaruさんなら皆も納得してくれるはず。
確かに10月は異動の季節。それにしてもこのタイミングでの海外転勤とは容赦がない。糸魚川の予定があったのでどうするか迷いましたが、受諾することにしました。
そんなこんなで急遽私が主催となり、TOTが行われることになったのでした。
2012年10月6日、無事にイベントは開催。6人が往復コースに挑戦し、3人が完走しました。
その後
2012年のTOTイベントはそれなりの盛り上がりを見せ、「TOT」という名称もある程度認知されました。
その後も数名が単独でTOTに挑戦され、完走しています。
過去事例
私が把握している過去事例(ファストランとしての往復記録)の紹介です。
井手さんの挑戦(1982年/OTO)
実は私が「TOT」の呼称を言い出す30年近く前に、往復に挑戦されていた方がいました。つい先日まで日本縦断の最速記録(ギネスには未登録)を保持していた、井手一仁さんです。
日本縦断、大阪→東京で日本記録を打ち立てた井手さん。次は往復に挑戦しようと、家のある大阪から東京を往復するチャレンジ企画に挑みました。
当初の目標はなんと36時間。井手さんには以前直接お話を聞きましたが、この時間設定の理由について以下のように述べていました。
片道19時間代で行けたからね。
更に頑張れば片道18時間で行ける。往復でその2倍。
単純計算ですわ。
ただ色々とトラブルなども重なり、結果は47時間56分(往路: 20:51、復路: 27:55)。それでも驚異的な速さで最後まで走りきっています。
恐らくこれが一番最初に行われた「ファストランとしての東京大阪往復」であり、未だに破られていない記録です。
TOTイベント (2012年)
前述のイベント化されたTOTです。
このイベントは「往復全て走ってもいいし、片道参加や途中区間のみの参加も可」という参加条件となっていました。
全参加者は19人。フルコースであるTOTにエントリーしたのは以下の6人です。
- キクミミさん
- チャリモさん
- ふぃりっぷさん
- なるさん
- 酔猫庵さん
- baru
この中で、ふぃりっぷさんと酔猫庵さんは面識がありましたが、あとの3人とは初対面。その後、皆さんすごい実績を残されていくことになるのですが、まだまだそれを知らない頃の話です。
TOTには特に制限時間はありませんが、「3連休開催」「土曜0時スタート」という開催条件から、「3連休が終わるまで(72時間以内)に帰ってこよう」というコンセンサスが形成されていた気がします。
TOTは1100km弱ですが、1000kmブルベの制限時間が75時間なので、割と適切な時間設定だったと思っています。
6人がスタートしたものの、ふぃりっぷさん・なるさん・酔猫庵さんは残念ながらDNF。最後まで走りきったのは私を含む3人でした。
- キクミミさん
66時間55分 - baru
67時間38分 - チャリモさん
69時間12分
なんとかイベント的には制限時間だった72時間前には走者が全員走り終えられたことになります。
酔猫庵さんのTOT挑戦 (複数回)
2012年のTOTではリタイヤとなった酔猫庵さんですが、その後は単独で複数回のTOTにチャレンジ。
TOT 72h49mで無事ゴールしました。みなさん、ありがとうございました。 pic.twitter.com/xiPJEgW2DW
— 酔猫庵 (@Suibyouan) May 2, 2016
2016年には72時間49分で見事に完走を果たされています。
番外: もう一つのTOT
2003年、日本チームが初めてPBPに挑戦しました。
先日、2003年PBP参加者のレポートを読む機会があったのですが、その中に「PBP前年のTOTで練習をした」という記載を見つけて驚きました。私が言うより10年も前に、PBPの練習としてTOTを走っていた人がいたのか!と。
しかし、こちらの記事(オダックス埼玉サイト内のPBPレポート)を見て、ここで言うTOTは「Toronto-Otawa-Toronto」という全く別の1000kmブルベだったことが判明。2002年に開催され、何人かの日本人が完走したようです。
当時、日本ではブルベ(BRM)が始まったばかり。1000km以上のカテゴリのブルベは国内で開催がなく、経験を積むためには海外に遠征するしかありませんでした。そこで、何人かの日本人が武者修行的にカナダで2002年に開催されたToronto-Otawa-Torontoに挑戦した……という流れだったようです。
全くの偶然ですが、日本とカナダのTOTが大体同じ距離であることには驚きました。
TOT挑戦者への注意点
これから挑戦しよう、という方向けに過去の挑戦で気になった注意点を挙げておきます。PBPへのオマージュとして始まったPBPですが、PBPにも参考になるヒントがありますので、そのあたりの話を絡めて書いていきます。
スタート時刻は深夜にしないほうが良い
2012年の挑戦時、私達は土曜の午前0時にスタートしました。
三連休で終わらせるというイベントの都合上、0時スタートとしましたが、深夜スタートは身体にとって過酷です。睡眠リズムは狂って変な時間に眠気が出てしまい、スピードダウンは免れません。
PBPも夕方18-21時にスタートしますが、最初の夜を徹夜で走ったことで2日目以降にしわ寄せが来てリタイヤの原因になることもしばしば。600km以下のブルベでも、夜スタートは同じコースでも難易度が一段上がります。
TOTはキャノボと同じくスタート時間は自由なので、わざわざ不利な夜スタートにすることはありません。出来れば「普通に睡眠を取ってからスタートできる」時間帯にしたほうが良いと思います。具体的には朝6時前後でしょうか。
風向きや休日の都合から夜スタートになることもあると思いますが、1000kmクラスのライドは勢いで押し切ることは難しいです。体調と睡眠時間を考えてスタート時間を決めてください。
往復で風向きは逆転する
キャノボ挑戦者であれば意識している方が多いと思いますが、東海道は西風が吹くことが多いです。東風が安定して一日続くことは稀です。
往復コースであるTOTは、往復どちらかは向かい風になる可能性が高いです。往復ともに追い風になるような日もないことはないでしょうが、そのタイミングと休日の日程を合わせることは至難の業です。
往路が追い風ならば復路は向かい風になる可能性が高いですし、往路が向かい風ならば復路は追い風になる可能性が高いです。当然ながら追い風なら体力が温存できますし、向かい風なら体力を消耗します。これを頭に入れた上で計画を立てたほうが良いでしょう。
なお、PBPは内陸を通るルートであり、そこまで強い風が吹くことはありません。
復路は往路の1.2倍の時間を見込む
人間は「疲れる」生き物です。キャノボであれば最初から最後まで一定速度で走れる人もいますが、TOTではそうも行きません。風向きにもよるかもしれませんが、往路より復路のほうが時間がかかります。
2012年のTOTの私の往復の実績時間は以下の通りです。
距離 | 時間 | ルート | |
---|---|---|---|
往路 | 548km | 31:32 | 日本橋→戸塚→厚木→ 御殿場→沼津→静岡→ 浜松→名古屋→鈴鹿→ 京都→梅田 |
復路 | 527km | 36:06 | 梅田→伊賀→鈴鹿→ 名古屋→浜松→静岡→ 三島→箱根→小田原→ 戸塚→日本橋 |
往復合計 | 1075km | 67:38 | – |
往路は31時間32分、復路は36時間06分掛かりました。おおよそ、復路のほうが1.2倍の時間が掛かっています。この日は珍しく往復ともに無風に近く、風の影響をほとんど受けませんでした。
道中、仮眠は4回取っています。四日市(400km)・大津(480km)・大阪(550km)・豊橋(800km)です。中盤に3回も仮眠を取っていますが、それだけ夜スタートの負債は大きいということでしょう。
ちなみに計画段階では「往路: 28:55」「復路: 29:45」「往復: 58:40」としていましたが、絵に描いた餅に終わっています。
「往路と復路がこんなに近しい時間になるはずはない」と今なら分かります。しかし、当時の私は最長で550km/24時間のキャノンボールの経験しかなく、まだ怖いもの知らずでした。復路も往路と同じくらいのタイムで走れるだろうと考えていましたが、全くそうは行かなかったわけです。
前述の井手さんも、「往路: 20:51」「復路: 27:55」と、往路に比べて復路は1.2倍の時間が掛かっています。日本縦断を5日ちょっとで走ってしまう井手さんですら、徐々に疲れていくわけです。
ロングライドは最初から最後まで等速で走り続けられるのが理想ですが、なかなかそうも行きません。計画を立てる際には、復路の時間を往路の1.2倍くらいに見積もったほうが良いでしょう。往路が28時間なら、復路は33時間。往路が30時間なら、復路は36時間くらい掛かるはずです。
仮に私が当初目標としていた58時間40分で走り切ろうと思ったら、往路は26時間で走る必要があります。このペースで走って、残り500kmを完走できるイメージはちょっと湧きません。キャノボを20時間で走れる人ならば往路26時間は現実の範囲内かもしれませんが。
ちなみに、これはPBPの見積もりでも大体同じです。PBPの制限時間は往路40時間、復路50時間で設定されています。大体1.2倍ですよね。経験則的にそうなるということなのでしょう。
大阪の元標の「終わり」感に注意
これは、特にキャノンボール経験者の方への注意点です。
TOT挑戦を考える人の多くはキャノンボール経験者だと思います。キャノボ挑戦者にとって、道路元標はゴールの象徴です。これが近づいてくると頭の中では「負けないで/ZARD」、人によっては「サライ/加山雄三&谷村新司」が流れます。要するに「終わり」感がすごいのです。
そして、大阪市道路元標に到着すると気持ちがプツンと切れてしまう……というのは私も実際に味わった感覚です。ここで自転車を逆向きにするのにかなりの重さを感じました。
PBPでも、一番リタイヤ者が多いのが折り返し点のブレスト。「スタート地点に2-3時間で帰れる新幹線駅」がすぐ近くにあるという点で大阪とも共通点が多いです。
折り返し点には魔物が棲んでいます。ここまで「往路」「復路」というワードは使ってきましたが、出来れば「1100kmの一つのルート」と認識したほうが良いと思います。宿泊するにしても、大阪を避けて復路が始まった後にするなど、あまり大阪を一つの区切りと考えない方が良いでしょう。
これは「キャノボ×2」ではありません。「TOT」という一つのルートです。
単独挑戦は難易度倍増
私はTOTに単独挑戦をしたことがありませんが、恐らく一人だったら途中でやめています。将軍さんがイベント化して複数人で何とか走り切ろうとしたのは正しいアプローチだったと思います。
既に書いた通り、往復ルートというのは実に単調です。そして往復だと片道は向かい風に我慢する時間になる可能性も高いでしょう。要するにあまり面白いものではないです。
PBPは8割程度の人が完走しますが、それはやはり「イベント化されていること」が大きいと思います。「同じ目標に向かって走っている人が周囲にいる」と言うだけでモチベーションは上がるものです。もしも「PBPを一人で勝手に走れ」と言われたら、完走出来る人は激減するでしょう。
TOTのような3日掛かるコースを一緒にやってくれる人を見つけるのは難しいかもしれませんが、出来ることなら何人かで挑戦したほうが良いと思います。キャノボは単独挑戦が基本ですが、TOTにはそういった縛りはありません。
その意味で、単独で挑戦されて完走している酔猫庵さんにはリスペクトしかないです。凄すぎる。
まとめ
TOTの概要と成り立ち、挑戦する際の注意事項について書きました。
正直TOTは過去の私のライドにおいてもトップクラスに辛いライドではありました。ただ、それだけに思い出深いライドでもあります。
都市部の1000kmは短くありません。簡単な旅路ではありませんが、挑戦される方は道中お気をつけて。きっと思い出に残るライドとなるはずです。
著者情報
年齢: 40歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: GHISALLO GE-110(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)
# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。