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ここ10年でロードバイク界で流行った新技術
次はホイール周りとウェア周りです。
ホイール周りはディスクブレーキ化との絡みもあって、かなり大きく変化した部分でした。
ホイール周り
ホイール周りのトピックは盛りだくさん。6つのトピックがありました。
ワイドリム(タイヤ)化
2015年頃から、リムの内幅を広げる「ワイドリム」という言葉をよく聞くようになりました。
それまではリム内幅は「C15(内幅15mm)」が主流でしたが、「C17」が登場。カンパニョーロなどの有名メーカーも追従し、C17が標準化していきました。

その辺りの変化の様子はこちらの記事にまとめています。2016→2017年で一気にワイドリム化が進みました。
リムブレーキ時代にはあまりにリムが太すぎるとブレーキキャリパーの間を通らない問題があったのですが、ディスクブレーキ化によってその問題は解消。タガが外れたように、どんどんリム幅は太くなっていきました。
C17でワイドリムと呼ばれた時代は今や昔。現在ではC19が主流となり、C20よりも太いリムも多く見られます。

私が使っているディスクブレーキ用ホイール「HUNT 44 Aerodynamicist」はC20。かなり太いです。
ワイドリム化は、リムそのものを広げることが目的ではなく、より太いタイヤを使いやすくすることが目的でした。細いリムに太いタイヤを付けるとタイヤが歪な形になってしまいますからね。
これにより、2010年代前半には「23C」が普通だったタイヤ幅は徐々に「25C」が普通となり、今や「28C」が標準になりつつあります。
リム幅が広がると必然的に重量増になるので、ホイールの重量はワイドリム化によって少し増えました。
カーボンクリンチャー
ワイドリム化と時を同じくして増えたのが、カーボンリムでクリンチャータイヤが使えるホイール、いわゆる「カーボンクリンチャー」です。
2010年代前半はカーボンリムといえばチューブラーが普通。フックの整形が必要なクリンチャータイヤは各メーカーとも参入に及び腰でした。ダウンヒルでのブレーキング熱によるリムへのトラブルを警戒したのです。

今でこそカーボンクリンチャーホイールを多くラインナップするMAVICですが、フルカーボンクリンチャーのホイールの初リリースは2016年。それまではカーボンの中にアルミの芯を入れるなど、非常に慎重な姿勢を取っていました。
何らかの技術革新があったのかは私には分からないのですが、MAVICと時を前後して各メーカーはカーボンクリンチャーを普通にラインナップするようになりました。
2015年にはあの名ホイール「BORA」にもクリンチャーがラインナップ。それまでチューブラーでしか使えなかった憧れのホイールがクリンチャーに対応したことで、使用者が大いに増えた記憶があります。
ディスクブレーキ化が進行したことで、熱の影響やブレーキの制動性を気にする必要がなくなったため、最近はカーボンクリンチャーホイールが当たり前になりました。

私は「レーゼロカーボン」でカーボンクリンチャーデビュー。非常によく走るホイールでした。
PEO処理
ディスクブレーキ登場前夜に「雨の日でも制動力が落ちないホイールを作れないか?」ということで登場したのがPEO処理を施したリムです。
ブレーキ面に特殊処理を施し、専用ブレーキシューを使用することで、雨天時でも制動力が大きく低下しないことが売りでした。

代名詞とも言えるのがMAVICの「エグザリッド」。2010年登場で2011年リリース。
PEO処理をしたリムは黒くなるので「リムハイトが高く見えてカッコいい」などの理由もあって人気を集めました。

2014年にはカンパニョーロ・フルクラムもその流れに追従。「RACING ZERO NITE」「SHAMAL MILLE」がリリースされました。
しかし、ディスクブレーキ化により、制動力とリムは無関係なものに変化。PEO処理をする意味もなくなり、現在はほぼ廃れてしまっています。
チューブレスレディタイヤ
恐らく最初にロード用チューブレスタイヤをリリースしたのはHutchinsonです。調べた限りでは2007年頃には存在していた様子。
それに続いたのが日本のIRCで、こちらも2009年にはチューブレスタイヤをリリースしています。
私も2010年頃に初めてチューブレスタイヤを試しましたが、出先でパンクして復帰できず、結局クリンチャーに出戻った記憶があります。
この頃のチューブレスタイヤはいわゆる「ピュアチューブレス」であり、シーラントが無くても組付けは可能でした。シーラントはあくまでも「パンクした際に自動修復してくれるよ」というオプションだったわけです。
これに対し、近年主流となっているのが「チューブレスレディ」タイヤです。
ピュアチューブレスと異なり、シーラントが必須であることが特徴。その代わりに、タイヤ自体がしなやかで乗り心地がよく、軽量である特徴があります。
調べた限りだと、ロード用のチューブレスレディタイヤの先駆けはBontragerの可能性が高そうです。2013年段階でリリースされています。
日本のチューブレスの老舗・IRCも2020年にチューブレスレディに参入しました。「S-LIGHT」の公称重量は25Cで220gと、クリンチャータイヤ並まで軽くなっています(耐久性はそれなりでしたが……)。

そしてつい先日、ロード用タイヤのベンチマーク製品とも言えるContinentalのGP5000にチューブレスレディ仕様が追加されました。
これに伴い、ピュアチューブレス(と言いながらシーラント推奨と書かれていましたが)仕様の「GP5000 TL」はディスコン。世界的にチューブレス「レディ」タイヤへの移行が進んでいます。
TPUチューブ
TPU(熱可塑性ポリウレタン)を使ったチューブが2018年頃から出始めました。
通常のブチル製チューブの半分という軽量さを売りにしたチューブです。
TPUチューブの走りは「tubolito」だと思われます。
その後、RevoloopやSchwalbe、PIRELLIなどのメーカーもTPUチューブをリリース。若干熱に弱いという特徴はありましたが、チューブが熱を受けないディスクブレーキ化を追い風にシェアを伸ばしています。

なんと、最後発のPIRELLIに至っては「TPUチューブ内蔵のチューブラータイヤ」なんてものも発売しています。
TPUチューブは実は新しい技術ではなく、1980年代にはパナレーサーが「TX-α」という製品をリリースしています。現在のブームは二度目の波であるということですね。
フックレスリム
2020年頃から急に登場した新技術が「フックレスリム」です。文字通り、タイヤのビードを引っ掛けるためのフックがないリムを指します。
基本的にはチューブレス&チューブレスレディタイヤしか使えません(緊急避難用に低圧でクリンチャー運用も出来なくはないらしい)。

恐らく最初に出したのはGIANT傘下のブランドであるCADEX。そこから、ZIPPやENVEが追従しました。
最初にロード用フックレスを出したのはENVEだったようです。その後に、CADEX・ZIPPの流れですね。
フックレスの利点は以下です。
→ フックが無い分軽量化でき、フックありに比べて前後で100g程度軽い。
・値段が安い
→ 不良品率が低くなるため、製造コストが下がり、売値も下がる。
→ 今回試乗した303Sは、ZIPPなのに14万円ほど。
・転がり抵抗が低い
→ タイヤの変形量が減るため、転がり抵抗が減る。
・乗り心地が良い
→ 低圧かつエアボリュームが増えるため、乗り心地が良くなる。

カーボンスポーク
フックレスリムとほぼ同時くらいに流行してきたのがカーボンスポークのホイールです。
カーボンスポークのホイールと言えば、LightweightやMAVICのR-SYSが昔から存在していましたが、昨今流行っているのは普通の金属スポークのようにテンションを掛けられるスポークのホイールです。

こちらもフックレスと同じくCADEXが流行のキッカケを作ったと思っています。
現在では、HUNTやLUN、VORTEXなど新興メーカーが追従。これから更に流行りそうな感触があります。
ウェア周り
ウェア周りもエアロ化が中心ですが、安全面での進歩もありました。
セミエアロヘルメット
従来、エアロヘルメットと言えばタイムトライアル用に使われるもので、エイリアンのようなロングテールデザインのものがほとんどでした。
それを改良し、ロード用に使いやすくアレンジされたのがセミエアロヘルメットです。

流行の火付け役は、SPECIALIZEDの「EVADE」でしょう。
リリース直後は猫も杓子もEVADEといった感じで、レース会場に行くとほとんどの人がコレを付けていたイメージがあります。

続いて人気を集めたのが2017年発売の、KABUTO「AERO-R1」。
軽量になったとは言え200g台後半が普通だったセミエアロヘルメットの世界。そこに210gという衝撃的な軽さで参入し、爆発的な人気を集めました。
この頃はレース会場に行くと、EVADEの時と同様にAERO-R1一色だった覚えがあります。
現在でもセミエアロ路線は人気で、空冷製との両立を目指したモデルが増えています。
MIPS
同じくヘルメット関連技術として流行ったのがMIPSです。
MIPSは脳への衝撃を減らすためのテクノロジーであり、以下のように説明されています。
ヘルメットの内側に保護レイヤーを設け、衝撃を受けた方向に頭部をスライドさせることで保護性能を向上させ、脳へのダメージを軽減させる革新的なテクノロジーです。
自転車用ヘルメットとして最初に登場したのがいつのことかは定かではないのですが、私が知っている限りでは一番古くからやっているのが「SCOTT」です。

2014年発表の「ARX PLUS」というモデルに搭載されていました。
私はこのARX PLUSを持っていて、一時期使っていました。写真の黄色い部分がMIPSのレイヤーです。
その後、GIROやBontrager、SPECIALIZEDといった有名メーカーも追従。今では各メーカーの高級ラインにMIPS対応ヘルメットがラインナップされています。
エアロワンピースジャージ
従来はタイムトライアルで使われていたワンピースジャージですが、昨今ではロードレースの通常ステージで使われるケースも増えています。
今年のツール・ド・フランスでも、全選手というわけではありませんが、平坦ステージでスプリンターがエアロワンピースを着ている場面が見られました。やはりウェアの空気抵抗は馬鹿にならないということなのでしょう。
今年のツールの一幕。トップでゴールするカヴェンディッシュは、よく見るとエアロワンピースを着ているのが分かります。
オーダーウェアのチャンピオンシステムでも、エアロワンピースジャージがオーダー出来るようになっています。ホビーレース界でも愛用者は増えている様子。