Panaracer「Purple Lite」ファーストインプレッション

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これまで長く様子を見ていたPanaracerがついにTPUチューブに「再」参入。早速2本購入して試しました。

目次

購入まで

今回は発表からすぐに注文しました。しかし、実際に手に入れるまでには色々ありました。

突然の「パープルライト」発表

11月13日、昼時に突然の発表がありました。

これまで静観を続けていたPanaracerがTPUチューブを発売。名作ブチルチューブ「R’Air」を擁するPanaracerがTPUチューブに参入するのはちょっと意外に感じました。

どうやら発表と同時に発売されているらしく、ワイズロードの各店には入荷の記事が並んでいました。

Amazonでも受注予約が始まっていたため、告知を見てすぐに2本注文しました。特徴が興味深かったのと、パナレーサーの出すTPUチューブを使ってみたかったことが理由です。

パープルライトの特徴

PanaracerのTPUチューブ「パープルライト」の特徴的な部分を挙げると以下の通り。

  • ロード用(36g/23-32C)と、グラベル用(45g/32-47C)の展開。バルブ長は65mmと85mm。
  • バルブは、根本20mmが樹脂で、先端側がアルミの2ピース構造。
  • バルブキャップとバルブナットが付属。
  • 価格はロード用が1980円、グラベル用が2300円。

近代TPUチューブとしては後発だけあって、かなり色々と先達を研究したであろうスペックです。

23-32Cと、現代のロードバイク用タイヤとして使われる太さは一通りカバー。上限28Cだったり30CだったりするTPUチューブが多いので、32Cまでカバーしているのは貴重かもしれません。

構造的にも従来のTPUチューブの弱点を潰そうという新しい試みがされているのですが、それについては記事の後半で詳しく触れます。

その割に値段は1980円(ロード用)と、TPUチューブの中ではかなり安い戦略価格。国内企業の信頼性もあって、大いに話題を呼びました。

実はTPUチューブの始祖であるPanaracer

「PanaracerがTPUチューブに参入」と書きましたが、実はこの表現は正確ではありません。なぜなら、TPUチューブを世界で初めて発売したのはPanaracerだからです。

1987年のパーツカタログより

こちらは1987年のパーツカタログですが、Panaracer「TX-α」というTPUチューブが紹介されています。1986年に発売された元祖TPUチューブ。

その後、1990年代に入ると後継品となる「グリーンライト」を発売。今回の「パープルライト」という製品名は、その韻を踏んだと思われます。

いつの間にかPanaracerはTPUチューブをラインナップしなくなりました。時は流れて2010年代後半になってTPUチューブが再注目。それから今までPanaracerは沈黙を守ってきました。

そのPanaracerが満を持して発売したTPUチューブ。期待できないはずがありません。

なかなか入手できない

さて、Amazonに注文したパープルライト。11/16(土曜日)に配達予定となっていたのですが……

なんと配送遅延。

発表から26分で注文したのに、配送は後に回されてしまった……ということでしょうか? 仕方ないので、土曜日に行われた「スポーツバイクデモ」のパナレーサーブースで買おうとするも、こちらも売り切れ。帰り道にいくつかのショップに寄るも、どこもまだ入荷していないようです。

結局、土曜日に手に入れることは出来ませんでした。

翌日の日曜日、稲城「TRYCLE」に伺った所、販売しているのを発見! 65mmバルブのロード用を2本購入しました。

なお、Amazonの注文は速攻でキャンセルしました。見事な「konozama」でしたね。数年ぶりに喰らいました。

ファーストインプレッション

Panaracer「パープルライト」のファーストインプレッションです。

開封・取り付け・お試し実走の感想を書いていきます。

パッケージ

環境への配慮が見て取れる、最近流行りの段ボール色のパッケージです。

中身はこれだけ。チューブ本体と説明書が一緒に束ねられています。

チューブ本体には、以下が取付済みの状態です。

  • バルブキャップ
  • バルブナット
  • Oリング
  • スペーサー

同社のR’Airには紙の説明書は付属せず、パッケージ裏に注意事項が書かれているだけ。それに比べるとパープルライトの説明書の同梱方法は「絶対読めよ!」という圧を感じます。

「あのパナレーサーが出したなら」ということで、これまでTPUチューブを使ったことがない人が手に取る可能性は大いにあります。

こちらの記事に書いたように、TPUチューブは取り付けから運用までかなりクセがあります。ブチルチューブと同じつもりで扱うと、あっという間に使用不可能になることもあるでしょう。それを避けたいパナレーサーの想いが見て取れます。

説明書

TPUチューブの説明書としてはかなり懇切丁寧な内容のものが付属します。初めて手に取る人が多い可能性も考えて、かなり色々注意すべきことが書いてありますね。

基本的なことを除くと、このチューブに特徴的な内容は以下の通り。

  • リムブレーキにも使用は出来るが、長い下りでは熱による損傷の可能性がある。
  • パンクしたら修理はできない。
  • バルブナットは必ず取り付ける。

「リムブレーキでも使用可能」と書いてあるTPUチューブであっても、実際に長い下りを降りると熱で接着剤が溶けてパンクすることはあります。実際、私はRevoloopをリムブレーキで使った際、箱根から降りてきたら熱でスローパンクしていたことがあります。なるべくならディスクブレーキとセットで使う製品だと思います。

「パンクしたら修理できない」というのも、「それはそうだろうな」と思います。TubolitoやRevoloopは補修パッチを出していますが、所詮接着なので一時しのぎです。ブチルチューブ+ゴム糊のようにずっと効果が続くものではありません。ならば最初からパッチを出さないというのも一つの答えだと思います。

そしてバルブナット。これは他のTPUチューブには無い項目です。これについては、この後の章で詳しく説明します。

重量

公称36gで、実測36g。正確です。

付属品を除いた本体のみの重量は34gでした。

こちらに国内販売しているTPUチューブをまとめていますが、パープルライトの重量は通常モデルと軽量モデルの中間あたりの重量になっています。

バルブ

パープルライトでもっとも興味深いのが「バルブ」です。色々と新しい試みが反映されています。

2ピース構造のバルブ

まず興味深いのが、バルブを「樹脂+金属」の2ピース構造としてきたこと。

こちらの記事でもえんえんと色々書きましたが、先端が樹脂のバルブは色々と使い勝手が悪いのです。しかし、チューブと接着される根元側は樹脂でないと都合が悪い(金属とポリウレタンチューブの接着が難しいため)。

そこで、CYCLAMIやRideNowといった中国メーカーが近年出してきたのが、折衷案とも言える「根本: 樹脂」「先端: 金属」のハイブリッドタイプ。Panaracerもこの構造が合理的と感じたのか、2ピース構造のバルブとしてきました。

もう一つ大きいのが、2ピース構造のバルブの金属部分にネジ切りがされていることです。

CYCLAMIの2ピース構造バルブ

2ピース構造のバルブはCYCLAMIとRidenowが出していましたが、いずれも金属部分はネジ切りがされていませんでした。ネジ切りがされていないと何が問題かというと、バルブナットが付かないのです。

Ridenowの最新モデルは金属部分にネジ切り付きのものもあるようですが、まだまだ日本では入手性が良くありません。

その点、パープルライトは金属部分にネジ切りがされています。バルブナットが使えるわけですね。

バルブナットが使える

さて、バルブナットが使えると何が嬉しいのか。

フロアポンプには、口金をバルブに押し付けることで固定するタイプのものが多いですが、バルブナットが無いとバルブがリムの内側に押し込まれることになります。

TPUチューブのバルブは、大体このように円形のシートをチューブと接着することで気密を保ちます。バルブが押し込まれると右の写真のように接着が剥がれ、使用開始からいきなりパンク……なんてことがあり得ます。ここでパンクしなかったとしても、バルブの根本がダメージを受け、ここからスローパンクしているケースはかなり多いはず。

その点、バルブナットが付いていればバルブが押し込まれることはなく、根本がダメージを受けることはありません。さすがパナレーサー。

パープルライトもチューブの内側からシールされていますが、バルブナットでバルブが固定されていれば、ここが剥がれることもないはずです。

また、バルブナットがないと走行中にリムと接触してカタカタ音を立てることもあります。私はこれが苦手でTPUチューブのバルブの根本にビニールテープなどを貼っていましたが、それもしなくて済みます。

そして、バルブナットは以下のような役割もあります。

英式バルブや仏式バルブに使用されているリムナットは、バルブステム(管の部分)が斜めに倒れたりしてリム穴の縁でチューブが損傷するのを防ぐ目的を持っています。空気圧が低いと、タイヤ内でチューブが動きやすくなり進行方向にずれる場合があります。

この時、バルブステムが引きずられて斜めになったりします。

リムナットは工具で締めるとバルブステムとチューブの接合部を損傷する危険があります。必ず指で回してしっかりと締める程度に固定してください。

Panaracer FAQより引用

空気を入れた際にチューブが膨らむ力でリムと不正な方向で接触し、パンクするのを防ぐ役割があるわけですね。

「少しでも軽量化したい」ということでバルブナットを付けない人もいますが、パンクリスクを増やしていると思います。是非バルブナットは付けてください。

バルブコアが外れる

金属バルブなので、バルブコアを外すことが出来ます。

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これでTPUチューブ用のシーラントを入れることも可能に。果たして本当に効果があるのかは分かりませんが。

電動ポンプにも対応

電動ポンプの口金付近の温度は100℃を超えることも

最近流行りの電動ポンプ。その特徴の一つが「口金付近が物凄く熱くなること」です。

「リムブレーキでTPUチューブを使うと損傷する」と前段に書きましたが、これはリムの摩擦熱でTPUチューブの接着や樹脂のバルブが溶けてしまうから。電動ポンプの口金は同様のリスクが有るということです。

その点、金属バルブ+延長ホースを使えばリスクはかなり下がります。実際、Panaracerの製品ページには「近年増えている電動ポンプの使用にも対応するようにバルブの先端側は金属製となっています。」という記載があります。

ただ、説明書には「手動ポンプを使ってください」とも書いてあります。電動ポンプで一番熱くなるのは口金ですが、送り込まれる空気もかなり熱くなります。TPUチューブに熱は天敵なので、「なるべくならば避けてね」ということなのでしょう。

バルブの太さ

樹脂バルブのTPUチューブの一部は、バルブが太すぎて「リムのバルブホールを通らない」「ポンプの口金を通らない」ケースがあります。

JIS規格では仏式バルブの太さを最大6.03mmまでとしていますが、それを超えた太さの樹脂バルブが多いんですよね。

パープルライトのバルブの先端は5.84mmと、一般的な金属バルブと同様の細さ。これならばバルブホールはすんなり通過するはずです。

一方、根本近くの樹脂部分は一点だけ妙に太い部分があります

ここの太さを実測すると6.12mm。JIS規格の上限を超えちゃってますが大丈夫でしょうか? リムには外周部と内周部と2箇所のバルブホールがありますが、内周部のバルブホールが細すぎるとここが引っかかる可能性はあります。

継ぎ目

バルブに加えて、パープルライトで特徴的なのが「継ぎ目」です。

TPUチューブは製造上の理由から、ブチルチューブにはない「継ぎ目」があります。

パープルライトにもこの継ぎ目があるのですが……ちょっと他社とは違った特徴のある継ぎ目なんですよね。

2-3mmの細い継ぎ目が2つあり、その間の空間が「あえて接着していない」ような構造になっています。様々なTPUチューブを見てきましたが、こんな継ぎ目は初めて。

これは単なる推測でしか無いのですが、「膨らませたときの継ぎ目の不均一な膨らみ」対策ではないかな、と。

ほとんどのTPUチューブは膨らませると継ぎ目の部分だけが凹んでしまい、ちょっと見た目には怖い膨らみ方となります。この継ぎ目で振動を感じる人もいます(私は感じたことがありませんが)。

これはもうTPUチューブの宿命だと思っていたんですが、この新構造でその宿命を打破しようとしているなら素晴らしいですね。

取り付け

さて、説明書の内容に従って、実際に取り付けていきます。リムブレーキでは熱問題がありそうなので、今回はディスクブレーキ車に装着。

パープルライトに交換前に装着していたのは、私がTPUチューブで最も信頼するRevoloop「Race」です。

チューブに少量の空気を入れる

まずリムに取り付ける前に少しだけチューブに空気を入れます。これをやらないとペラペラのTPUチューブは噛み込みやすくなるので、その対策。

リムに取り付け

タイヤとチューブをリムに取り付けます。バルブ根本の樹脂部分の太いところが通るか不安でしたが、普通に通りました。

タイヤのビードを全周に渡ってはめて、タイヤの取付完了。

バルブナットを取り付け

付属のOリング→バルブナットの順でバルブに取り付けを実施。バルブナットにも上下があります。パナレーサーロゴが正位置となるように取り付けましょう。

取り付け完了

バルブナットを取り付けたら空気を入れて取り付けは完了です。

今回は50mmハイト/36mmハイトのリムに取り付けを行いました。36mmハイトの場合は若干樹脂部分がリムの外に出てしまうので、付属のスペーサーを取り付け。スペーサーはリムに沿う形状をしています。

お試し実走

10kmほど、パープルライトで実走してきました。

走行性能に関しては、チョイ乗りでは「TPUチューブの一般的な乗り味」という印象。

漕ぎ出しは軽く、ブチルチューブよりは若干硬質。とはいえ、「妙に跳ねやすい」とか「乗り心地が破綻している」ということもなく。これまで試したTPUチューブでは、1度乗っただけで「もう使いたくない」となるほど乗り心地の悪いTPUチューブも2種類ほどあったので警戒していましたが杞憂だったようです。

Revoloopと比べると同一空気圧で若干振動の収束が遅いかなぁ……といった程度の差は感じましたが、ブラインドテストをしたら分からないレベルだと思います。

空気圧の低下具合

ブチルチューブも24時間で0.2気圧くらい低下しますが、TPUチューブもその比率は大体同じ。24時間で0.2気圧程度の低下が普通です。

ただ、パープルライトと同じ2ピースバルブを採用していたCYCLAMIは妙に空気抜けが早く、1日で0.4気圧程度も低下していました。

パープルライトも同じだったら……ということで、24時間後の空気圧を実測。

前輪: 6.0気圧→5.8気圧
後輪: 6.5気圧→6.3気圧

きっちり0.2気圧ずつ低下。特に空気圧低下が早いということはなさそうです。

まとめ

価格は安価、その割に品質は良さそうなTPUチューブです。

不具合の起きやすいバルブ周り・継ぎ目周りに対策が示されていたことには驚きました。(元祖だけど)後発の強みを活かした製品に仕上がっていそうです。

実際に性能面がどうであるかはもう少し使わないと分かりませんが、それは追ってレビューしたいと思います。

しかし、この出来のものを1980円で出してしまうと、同社の名品「R’Air」がどうなるのか気になります。乗り心地では確実にR’Airが上なので今後とも継続して欲しいところですが……。

著者情報

年齢: 40歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 82kg
自転車歴: 2009年~
年間走行距離: 10000~15000km
ライドスタイル: ロングライド, ブルベ, ファストラン, 通勤
普段乗る自転車: GHISALLO GE-110(カーボン), QUARK ロードバイク(スチール)
私のベスト自転車: LAPIERRE XELIUS(カーボン)

# 乗り手の体格や用途によって同じパーツでも評価は変わると考えているため、参考情報として掲載しています。
# 掲載項目は、road.ccを参考にさせていただきました。

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この記事を書いた人

ロングライド系自転車乗り。昔はキャノンボール等のファストラン中心、最近は主にブルベを走っています。PBPには2015・2019・2023年の3回参加。R5000表彰・R10000表彰を受賞。

趣味は自転車屋巡り・東京大阪TTの歴史研究・携帯ポンプ収集。

【長距離ファストラン履歴】
・大阪→東京: 23時間02分 (548km)
・東京→大阪: 23時間18分 (551km)
・TOT: 67時間38分 (1075km)
・青森→東京: 36時間05分 (724km)

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